(音楽話)42: Tasmin Archer “Sleeping Satellite” (1992)
【自問】
Tasmin Archer “Sleeping Satellite” (1992)
フジテレビ系列で水曜深夜に放送していた「BEAT UK」という英国チャートランキング番組がありました(1990-2004)。貴重な洋楽情報を仕入れることのできる希少なメディアとして、毎週ビデオテープ(3倍速)に録って観ていたものです。
この番組で「マッドチェスター」たちーHappy Mondays、The Stone Roses、The Charlatans、Inspiral Carpetsの映像に触れることができたし、New Order、James、Soul ll Soul、808 State、Orbital…無数の音楽を知ることができました。90年代前半のダンス・ミュージックの数々をライヴ演奏や野外フェスの映像もバンバン流していたし、インタビューも流してた。「ベストヒット USA」が終了した後の、私の宝箱でした。
その中で、非常にキャッチーなメロディと耳馴染みの良い声、ちょっと難しそうなことを歌ってるぽい歌詞に惹かれたのが、このTasmin Archer “Sleeping Satellite”でした。
Tasminは1963年英国ヨークシャー州ブラッドフォード生まれ。ルーツはジャマイカらしいですが、幼少期は音楽キャリアを積むことなく、普通に就職。裁判所の事務員をやりつつ、バンドでバック・ヴォーカルをやっていたようで、徐々に音楽漬けに。90年にEMIと契約、”Sleeping Satellite”はデビュー作です。UKチャートで1位を獲得し、USビルボードでも32位。翌93年にBRIT Awardsで「ベスト・ブリティッシュ・ブレイクスルー」賞を受賞します。実はこれ以降、あまり売れることなく低迷してしまうのですが、現在も活動しているようです。
メロディが美しい。少しオリエンタルなテイストも感じさせますが、サウンド全体が煩くなく、彼女のハスキー声を持ち上げています。歌詞は「私たちって 進化進化って言ってるけど ちょっと無責任過ぎない?」。当時、地球環境への警鐘が本格的に世界規模で鳴らされ始めた時で、Tasminはそういった話題を優しく、でも少し厳しく、説いているように聴こえます。
コロナ禍で先が見えない中、眼前の惨状を悪い意味で前向きに捉え、その先に明るい未来が待っていると先導することが正しい、と私にはどうしても思えない。暗い気持ちよりも明るい心持ちで、というのは理解できますが、かと言って現状を見て見ぬフリをして良いわけがない。
でもまだ私たち やろうとしてる
無駄なことを 正当化しようと
甘い蜜を 夢見て
人類最高の 冒険だと嘯いて
皆さんが健やかに過ごせますように。
+++++++++
<+>
恨めしく思うわ 月夜の空と
勇気と共に失われた 夢のことを
恨めしく思うわ 月夜の空を
どういうこと? 海はまだ干上がっていくの?
この静かに眠る 星のせいにしてはいけないわ
月に行ったのが 早すぎたのかしら?
チャンスを 無駄にしちゃったのかしら?
激しい競争の 只中で
追い求めた理由を 幻想の中で見失っていく
でもまだ私たち やろうとしてる
無駄なことを 正当化しようと
甘い蜜を 夢見て
人類最高の 冒険だと嘯いて
<+repeat>
進化で得てきたものを なくしてしまったの?
あまりに早く 極めちゃったのかしら?
この世界が 緑でいっぱいだと言うなら
なんで蒼い月の下 悲鳴をあげているの?
どうしたっていうの?
地球が犠牲になってるのに
薄っぺらい価値観とか
人類の偉大な冒険とやらの
<+repeat>
星々を視界に捉えると いつも思うの
素晴らしい進歩! だとは思うけど
その代償を 背負うだけの覚悟って
私たちに 本当にあるのかしら?
もしくは やり過ごしてしまうの?
暗闇に向かって撃つ みたいなことして
目標を見失ってもなお
ナケナシの冒険心を拠り所にして
<+repeat>
(Tasmin Archer “Sleeping Satellite” 意訳)
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