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(音楽話)06: Jackson Browne “Here Comes Those Tears Again” (1976)

【後悔と懇願】

Jackson Browne “Here Comes Those Tears Again” (1976)
https://www.youtube.com/watch?v=WzNo7Ol4zTA

70-80年代の米国ウェストコーストを代表するシンガーソングライター。初期Eaglesをはじめ多くのバンドやシンガーにも楽曲を提供。その影響力の大きさから「西のJackson Browne、東のBruce Springsteen」と言われた(?)Jackson Browne。私はウェストコースト・サウンドを毛嫌いしていた時期があって(カントリー的なサウンドが無邪気に感じてダメだった)、彼については食わず嫌いでした。しかしAORに今更ハマり出してからというものの、すっかりお気に入りに。淀みのない声、幾重にも暗喩を含ませた歌詞、明るさの中に少し翳りを感じさせるサウンドなど、琴線に触れまくる要素をたくさん持った稀有な存在。ハイ、遅れてきたかぶれ者です笑 米国本国では(当たり前ですが)大御所としてその功績は讃えられつつも、今も現役でライヴ活動を行っています。

”Here Comes Those Tears Again”は1976年のアルバム「The Pretender」収録ですが、このアルバムは非常に悲しい運命を背負って生まれました。当時彼の奥様だったモデル・女優のPhyllis Majorが、アルバム制作中に自らの命を絶ってしまったのです。

当時のJacksonはツアーやレコーディングで多忙な日々。夫婦の生活はすれ違っていたそうです。とにかく寂しかったPhyllisはそれまで幾度か自殺を仄かし、Jacksonはそれを持て余していました。そしてある夜、Phyllisはその一線を越えて本当に彼方の世界に逝ってしまった。その絶望感と喪失感は、このアルバムに大きな影を落としました。歌詞に込められた意味合いが全体的に若干暗いのはそのためだと言われています。

この曲の歌詞はJacksonとNancy Farnsworthという女性の共作。このNancy、実はPhyllisの母親…あの事件の前に作られたものなのか、後に作られたものなのか判然としませんが、ほぼ間違いなく後者でしょう(Nancyのクレジットは、その著作権料を少しでも彼女に分配しようとしたJacksonなりの配慮と思われます)。あまりに示唆的で悲しいニュアンスを含んでいて、曲調が多少明るいから余計に、その歌詞が悲しく響きます。

この映像は78年あたりのライヴかと。楽器を何も弾かずに歌うJacksonは珍しいですが、バンドの演奏がとてもまとまっていて心地良い。目立ち過ぎずに確実にリズムを刻むベースとドラムス、控えめながら所々でポイントを押さえたフレーズを叩き出すピアノ、哀愁と秘めた想いを醸し出すギターとオルガン。そしてJacksonと同じレベルで前面に出てくる素敵な女性コーラス。どれも素晴らしい。
(彼女の名はRosemary Butler。一時期はLinda Ronstadtの次に来ると言われたパワフルなシンガーで、後年、映画「汚れた英雄(主演・草刈正雄)」の主題歌”Riding High”(1982)や、アニメ映画「幻魔大戦」の主題歌”CHILDREN OF THE LIGHT”(1983)を歌った女性)

この歌を歌うJackson Browneは、どこか虚な眼をしているように思えます。歌う際にPhyllisのことを思い出さないわけがない。埋まることのない心の穴を少しでも見ないようにするかのような、明るめの演奏としっかりしたサウンド。悲しいから、明るく。辛いから、朗らかにーーーでなきゃやってられない。そして後悔も懺悔も寂寥も諦念も全部受け入れた上で、「お願いだからもう消えてくれ/Just walk away」と最後に懇願する…だって来る日も来る日も涙は枯れないから(Here comes those tears again)。完全な私の妄想ですが、辛過ぎる。切な過ぎる。

感傷的になる秋に、あまりに滲みる歌です。

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また涙が溢れてきた
君のことを乗り越えようって時
なんとかしなきゃって思う時
君のことが恋しいだなんて思わない夜にかぎって
結局のところ僕は強くならなきゃいけないんだ
君の足音が玄関で聞こえてしまうような時は特にね

僕らはここで立ってるよ
今まで幾度もそうしてきたように
君のことはちゃんと見てたはずなのに
君がドアから出ていくのを見てた時に…
でも今まで君はいつだって戻ってきて
居なくなるだなんてハナからしてないかのように振舞ってたのに…

どっちかなんて分からないよ
君に心を開いて君を受け入れるかどうかだなんて
涙が溢れてきたよ
また涙が溢れてきちゃうんだ

よく話してくれたよね
君がどれだけ自由になりたかったかって
そして独りでうまくやっていこうとしてたよね
今君はここに立ってて僕に言うんだ
一体何があったかっていう顛末を

また涙が溢れてきたよ
(どっちかなんて分からないわね)
僕はどう堪えればいいのか教えてくれよ
(あなたが心を開いて受け入れてくれるかどうかなんて)
涙が溢れてきてしまう
また涙が溢れてきちゃうんだ

いつの日か
僕が強くなって気分良くなって
泣かずに君と向き合うことができたなら
君は僕の友達のように見えるかもしれないね

でもどっちかなんて分からないよ
君に心を開いて君を受け入れるかどうかだなんて
涙が溢れてきたよ
また涙が溢れてきちゃうんだ

僕は内に籠って明かりを消す
暗闇が支配するけど君は僕の視界から消えてくれる

でもどっちかなんて分からないよ
君に心を開いて君を受け入れるかどうかだなんて
涙が溢れてきたよ
また涙が溢れてきちゃうんだ

ただ立ち去ってくれよ…

(Jackson Browne “Here Comes Those Tears Again” 意訳)

(紹介する全ての音楽の著作権等は制作者にあります。本note掲載についてはあくまで個人の楽しむ範囲のものであって、それらの権利を侵害することを意図していません)

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