音楽療法士にとって大事な4つの「きく」
執筆者:細江弥生
先日エンターテイメントニュースで映画監督の紀里谷和明氏が人生を変えたモーガンフリーマンからの言葉に「LISTEN(聞きなさい)」と言われた事をあげていました。
紀里谷氏は若かった頃、人の話を聞かず失敗する事が多かったそうです。しかし、良い映画監督になる為にはどうしたら良いか名優モーガンフリーマン氏に尋ねた所「聞きなさい」と言われ目覚めたそうです。
私も臨床数年目の頃「自分が学んできた音楽療法をもっと広めたい」という想いが強すぎて、周りの声を「聞いているよう」で「聞いていなかった」時期があります。その頃はもちろん臨床もあまり上手くいきません。「きく」事が出来てればたくさんの事を吸収できる多領域の専門家と一緒に働いていたのに、「自分の音楽療法」にこだわり過ぎていたのかもしれません。
私の場合その状況が変わったのは、患者さんとの関わりや上司からの「think outside the box(既存の考え方にとらわれないで)」という言葉でしたが、この「きく」という言葉と紀里谷氏の経験にも共感を持ったので、今回音楽療法士にとっての4つの「きく」について考えてみました。「きく」にはたくさんの漢字があり、どの漢字を使うかによって意味も多少違ってきます。他にももっとたくさんの漢字があるのですが、今回は以下の4つを選んでみました。
①「聞く」音、声を耳に感じ取る
まず基本的な事として、クライエントの声や音に敏感になり、感じる事が音楽療法士には大切です。この「聞く」事ができなければ音楽療法が始まらないといっても良いくらいかもしれません。
②「聴く」注意して耳に入れる
「傾聴」の漢字にも使われているくらいですから、この「聴く」にはセラピストとしての技量としても大切な「聴いて受け止める、理解する」といった事も含んでいるように感じます。そしてまた他職種や他人の言葉も聴き、一緒に学んでいく姿勢もセラピストとしての成長に大きく関わっています。また、音楽療法士の道具である「音楽」についても深く聴くことによって、マンネリ化した音楽からもっと効果のある音楽の使い方に気づく事もあります。
③「効く」効果や働きなどが現れる
音楽療法を行う上で、本当に患者さんやクライエントの為になっているのかという「効果」を考えながら行う必要があります。また音楽療法の効果を他職種とも共有できるような研究結果が今後もっと必要になって来ると考えられます。
④「訊く」尋ねる
この漢字はあまり使われなくなったそうですが、尋ねると言う意味を考える為に選択しました。臨床経験が増え年齢を重ねるごとに「尋ねる」事が難しくなる事もありますが、常に謙虚な気持ちで学ぶ事は心をオープンにさせ、多くの知識や知恵を取り入れさせてくれると考えます。
以上、4つの「きく」について述べてみましたが、基礎的な事で新しい情報ではない、と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし経験や年齢を重ね発信する機会が多くなると、ついこのごく基本的な事をないがしろにしてしまう可能性があります。また、「きく」ためには辛抱強さも必要になってきますので、それが出来なくなっている時は自分の心に余裕がなくあまり良くないサインなのかもしれません。私自身、仕事に終われ業務をこなすだけになって来ると、ついつい「きいているつもり」になっている事が多くあります。この4つのうちの1つにでも時々注意してみるだけでもたくさんの気付きがあり初心に戻れるかもしれません。皆さんも、是非試してみてくださいね。
音楽療法かけはしの会ニュースレター
2015年8月号に掲載したものを編集&加筆
執筆者:細江弥生 校正:小沼愛子
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