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【アーカイヴ】第133回/バッティストーニが振ると、《イリス》も楽しい[村井裕弥]
アンドレア・バッティストーニが振る歌劇《イリス》を聴いてきた。《カヴァレリア・ルスティカーナ》で有名なマスカーニの作品で、初演は1898年(《カヴァレリア・ルスティカーナ》の10年後だ)。よほどのオペラ通でないと知らない作品だが、それを東京フィルが取り上げるのはやはり、バッティストーニが強く推したからなのだろう。
しかし、《椿姫》や《蝶々夫人》ならまだしても、《イリス》を取り上げて、チケットが売れるのか。東京フィルは当然そこを気にしたと思われる。しかし、実際会場を訪れてみると、ほぼ満席。これはやはり、バッティストーニ人気が盛り上がっている証拠。「彼が振るものにはずれはない」と感じているファンがこんなにもいらっしゃるのだ。
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《イリス》は日本を舞台にした悲劇。若く清純な女性イリスが拉致され、吉原につれていかれる。彼女を追ってきた父親は、娘が娼婦に身を落としたことを怒り、彼女をののしる。絶望したイリスは、窓から身を投げる。
ストーリーだけ語ると、なんとも救いのない作品だが、実際聴いてみて清らかな気持ちになれるのは、冒頭と末尾に太陽賛歌が置かれているからだろう。イリスは、太陽神に救われる。彼女はけして不幸ではないのだ。
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イリス役はラケーレ・スターニシ。アマリッリ・ニッツァが妊娠したため、ピンチヒッターとして舞台に立ったが、十分な声の力と性格表現で、聴衆を魅了した。《オテロ》のデスデモナ役などもぜひ日本で歌ってほしい。
父親チェーコ役は妻屋秀和。どっしりした低音は、スターニシ、アニーレらにひけをとらない存在感。娘になんの非もないのに激怒する理不尽な父親だが、妻屋が歌うと極めて自然な流れのように聞こえてしまう。
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イリスを欲しがる富豪・大阪役はフランチェスコ・アニーレ。明るさとパワーを併せ持つ、いかにもイタリア人らしいテノールだ。《イル・トロヴァトーレ》のマンリーコ役など、ぜひ聴いてみたい。
バッティストーニは、今回も東京フィルから極上の美音を引き出していた。彼の演奏を聴いていると、「どうして《イリス》の上演や録音が少ないのか」と不思議になってしまうほどだ。2時間を超える大作だが、弛緩を感じさせるシーンは1つとしてなかった。第2幕・第3幕を通しで演奏したせいか、「ああ、もう終わってしまったのか。もっとひたっていたかった」という印象。
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演奏会形式ではあるものの、うしろの壁に投影される北斎・広重たちの浮世絵が、音楽の説得力を高めていたことも付記しておこう。ちなみに、浮世絵の選定はバッティストーニがおこなったとのこと。
バッティストーニの来日公演ライヴ盤は、
○レスピーギ:ローマ三部作
○マーラー:交響曲第1番《巨人》
○プッチーニ:歌劇《トゥーランドット》
○ムソルグスキー:組曲《展覧会の絵》
などが好評だが、この《イリス》もぜひリリースしていただきたい。いちファンとしての切なる願いだ。
(2016年10月20日更新) 第132回に戻る 第134回に進む
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音楽之友社「ステレオ」、共同通信社「AUDIO BASIC」、音元出版「オーディオアクセサリー」で、ホンネを書きまくるオーディオ評論家。各種オーディオ・イベントでは講演も行っています。著書『これだ!オーディオ術』(青弓社)。
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