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【アーカイヴ】第179回/アンダンテラルゴのトランスミュージック・デバイス [鈴木裕]

 アンダンテラルゴの鈴木良さんは塗る系のオーディオアクセサリーが嫌いだったそうだ。端子に塗って、音を良くしようというジャンルの製品だ。その人が開発した塗る系の製品がトランスミュージック・デバイス、略してTMDだ。

 まず基本的な話をすると、電気の通る接点部、たとえばRCAプラグやスピーカーケーブルの端子、アンプやスピーカー側の端子、電源ケーブルのプラグや電源タップの導通部などに使う。製品には二種類の液が入っていて基本的な掃除をしたあと、まず「ポリッシュ」液で磨き、「ポリマー」液で処理をする、という流れ。

 メーカーの説明を引用しながら具体的な作業を説明してみよう。
 ステップ1は「Polish (接点磨き))」。茶色いビンの方の液体少量を綿棒や紙(キムワイプ)等に浸して接点を磨き、終了したらきれいに拭き取る。自分がやっている感覚で言うと、非常にキメの細かい液体コンパウンドで端子の表面の薄い膜を除去している感じだ(念のため、メーカーではコンパンドという言葉は使っていない)。というのもたとえば無水アルコールとか3Mのバンドーで掃除した後でも、この「ポリッシュ」でクリーニングすると綿棒はけっこう黒く汚れるし、端子表面の感触、滑るとかひっかかる感じが変化するからだ。

「アンダンテラルゴ トランスミュージック・デバイス」
このメーカー初めての” 塗る系”のオーディオアクセサリー。
電気や音楽信号が通る端子の金属の部分に使用する。
「パワーアンプ周り」
パワーアンプ周りは入力のRCA端子。
スピーカーケーブルを接続する端子(Yラグ、バナナプラグ、ケーブルの導体そのままと、
場合によって接触するところが変わるのでそのすべてに対応する部位)、
電源ケーブルのIECインレット。そして真空管アンプなので、
真空管の脚が差さるところの接点に処理。
キムペーパーや綿棒などをたくさん使うことになる。

 そしてステップ2は「Polymer (拡張安定剤))で、白いビンの方の液体少量を綿棒に浸し、端子の金属部分にのみ塗布。とりあえず静かに置いて、10分経過したら、綿棒やキムワイプで入念に拭き取ることになる。この10分間というのは目安で、実際に開発した大学の先生によると5分でもいいそうだが、念のために10分という数字にしている。たしかに5分というと3分くらいでいいかと思ってしまう人が出てくるのが世の常である。とにかく自分は10分待つが、この時間で端子の金属の表面のへっこんでいるところや表面自体にPolymerが浸透し、水分が飛び、定着するような現象が発生しているらしい。導通する面積が拡がっているイメージだ。電気が通るところを「拡張」して「安定」させる物質。

 メーカーでは「その後すぐに機器の使用が可能です。なお、TMDによる効果が充分に発揮されるまでには通常で約1日を要します。電源ケーブル、電源入力端子、タップ等は最短でも2日を要します)」とある。自分の体験で言うと、処理した直後から効き出すが、4~5時間でとりあえず落ち着き、最初はややハイバランスだったのが一週間程度で低音も出てくる。さらに一カ月くらいたつと一回りエネルギーが高まってくるというのが、RCAケーブルに処理した経過。

 で、その後については「次回からの定期メンテナンスでは、Step 2のポリマー処理だけを行って下さい」という指示。タイミングとしては「機器のポテンシャルを最大限に保つためには、ポリマーによる3~6ヶ月ごとの定期メンテナンスをお薦めします。これにより接点表面の自然に付着する汚れを取り除き、最善の状態を保つことが出来ます」と説明されている。使用する綿棒のことや細かい部分については、直接アンダンテラルゴのウェブサイトに行って、取説のpdfを見ることを強くお薦めしたい。

 問題はその効き方だ。一カ月経過の音のことを書けば、まず帯域バランスは基本的に変化しない。あるいは音色感も元のままだ。艶が出るとかコクが出るとかもない。ないない尽くしで恐縮だが、基本的にそういう何かを付け加える方向の効果ではない。じゃあ、何がどうなるかというと、接点で失っていたもの、情報量とか、フォーカスの精度とかが俄然出てくるようになる。帯域バランスは変化しないと書いたが、コンポーネントやケーブルの持っていたポテンシャルとして、本来出るはずの低音や高音が聞え出すという意味では、場合によって高音や低音が目ざましく出てくる時もある。

 特徴は3つある。
 まずその効果の持続する時間がかなり長いこと。従来のオーディオオイルでは酸化してしまって、却って音がナマクラになったりもしたが、それがない。メーカーのテストでは、ひとつはTMDで処理したもの、ひとつは処理していないものをビニール袋に入れて放置。13カ月後に開封して比較試聴してみたが、TMD処理してあるものの優位性、音のクォリティについては変化していないことを確認している。実は2016年の秋には開発中のTMDの話は聞いていたのだが、モノとしては完成していたものの、そういう耐久性や、それを市販した後のさまざまな問題を検証していたのだろう。逆に言うと、いったん処理してしまうと元に戻せない。拭き取れないのだ。金属の細かいところに入って安定してしまうのだから。

「真空管の脚のところ」
オーディオオイルではなく、耐熱性も高いため真空管にも使用できる。
ただし、処理をするのは脚の導通部のみに注意深く作業したい。

 特徴の2番目はその音の到達度の高さ。
 いくつかのオーディオ雑誌の編集部でデモし、うちでも聞かせてくれたテストを紹介してみよう。

 その日はアンダンテラルゴで輸入しているザ・コード・カンパニー社のRCAケーブル、2種類を2セットずつ持ち込んできた。まず、ショウライン(1mペアで38000円)の、TMDで処理したものと処理していないもの。そしてコード・ミュージック(1mペアで64万円)の、TMD処理のあるなし。デジタルプレーヤーとプリアンプの間でテストした。
 まずショウラインの処理していないもので聴く。4万円弱のケーブルとしては素直でアキュレートな音。特に空間表現力のデッサン力の歪みのない感じはとてもいい。上位機種と比較すれば精彩感には欠けるが信頼できる音だ。続いてTMDで処理したショウラインで聴く。ここで頭の中で何かが迸ることになる。細部まで徹底的に見通しが良くなり、演奏上のノイズから音色の描き分けまで克明に見えてくる。驚かされたのは空気の音像が見えてしまうことだ。コンサートホールの空気が見える体験は初めてかもしれない。
 ま、ここまではいいだろう。
 問題は、続いてコード・ミュージックの未処理のものを聴く瞬間に発生する。残念なことにTMD処理したショウラインに負けている。品格のある音色感は素晴らしいがいかんせん情報量が欠落している。抜き差しできる端子は必要悪と思ってきたが、それにしてもこんなに伝わっていなかったのか。愕然とする。64万円のケーブルが4万弱に負けるているのだからたまったもんじゃない。アンダンテラルゴが輸入しているケーブルでやっているのだからいいのだろうが、これ、他のメーカーのでデモしたら大問題である。そういった意味では、捨て身のデモンステレーションなのだ。いかにアンダンテラルゴがTMDに自信を持っているかがわかるだろう。

 ちょっと興奮して横道に逸れてしまった。

 そしてTMD化したコード・ミュージックに繋ぎ変えて聴くと、ソフトに入っていた演奏の素晴らしさ、情報量の多さに納得したり、安堵したり、感動したり、素晴らしい結果に。それでもちょっと複雑な気持ちになってくる。元のソフトにはこんな深みの音が入っていたのに接点で伝わっていなかったのだから。

「TMD化したRCAケーブル」
TMD処理したケーブルたち。
2セットあるものは処理あり/なしとか、ポリマーの一回処理/2回処理、
などいろいろと試している。

 さらに横道に逸れると、ケーブルメーカーやアンプやプレーヤーのメーカーが接点部にTMD処理した製品をテスト品としてオーディオ雑誌などの貸し出しに使ったら明らかにその評価は高くなる。情報量という意味では4万円弱のケーブルを64万円ケーブルより良くしてしまうのだ。ザ・コード・カンパニーもこの効果に驚き、最上位のザ・ミュージックの端子はTMDで処理してから出荷するという。そりゃそうだ。64万円が3万8000円に負けられたらシャレにならない。オーディオ界騒然である。

 そして特徴の3番目。
 その値段だ。その効果に対して決定的に安い。今までも情報量という意味において素晴らしいアンプとか素晴らしいオーディオアクセサリーはあったが、いかんせん値段が高かった。まずは1万6800円(税抜き)のTMD-10を購入して体験してほしい。何十もの接点を処理できると思う。

 金属どうしの接点の表面というのは実は激しい凹凸で,TMDはこの金属表面と内部に浸透して凝固。その隙間や凹凸を埋めるという。その効果をわかりやすくキャッチコピーにしたのが「あなたのオーディオを覚醒させる」。
 そう、ヤバい液体なのだ。覚醒の剤なのだから。あなたは覚醒するのだろうか。
(2018年1月31日更新) 第178回に戻る 第180回に進む 


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鈴木裕(すずきゆたか)

1960年東京生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。オーディオ評論家、ライター、ラジオディレクター。ラジオのディレクターとして2000組以上のミュージシャンゲストを迎え、レコーディングディレクターの経験も持つ。2010年7月リットーミュージックより『iPodではじめる快感オーディオ術 CDを超えた再生クォリティを楽しもう』上梓。(連載誌)月刊『レコード芸術』、月刊『ステレオ』音楽之友社、季刊『オーディオ・アクセサリー』、季刊『ネット・オーディオ』音元出版、他。文教大学情報学部広報学科「番組制作Ⅱ」非常勤講師(2011年度前期)。『オートサウンドウェブ』グランプリ選考委員。音元出版銘機賞選考委員、音楽之友社『ステレオ』ベストバイコンポ選考委員、ヨーロピアンサウンド・カーオーディオコンテスト審査員。(2014年5月現在)。

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