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バッハを聴く 巨匠バルトルド・クイケン

バロック・フルート(=フラウト・トラヴェルソ)を始めようと決意したちょうどその頃、バルトルド・クイケンのリサイタルがありました。
クイケン氏は世界的なフラウト・トラヴェルソの名手であり、古楽界のレジェンドです。
東京でフラウト・トラヴェルソ奏者として活動されているプロの方は、ブリュッセル王立音楽院やハーグ音楽院で学んだクイケン氏のお弟子さんが多いです。
その彼がバッハを演奏しにやってくるというのですから、これはチャンスだ!ぜひ聴きにいこうと思いました。


バルトルド・クイケンってどんな人?

クイケン氏は1949年3月8日ベルギーに生まれました。
二人の音楽家の兄、ヴィーラントとシギスワルトの影響で、音楽を学びます。ルージュ音楽院、ブリュッセル王立音楽院、ハーグ王立音楽院ではモダンフルートを学びますが、その勉学中に素晴らしいオリジナルのバロックフルートを見つけるという幸運に恵まれます。博物館や個人のコレクションにある本物の楽器の研究や、さまざまなフルートやリコーダーの製作者とのコラボレーション、17世紀〜18世紀の資料の研究に基づき、現在もオリジナルの楽器で古楽を演奏しています。また、ブリュッセル王立音楽院、ハーグ王立音楽院でフラウト・トラヴェルソの教授を務めています。


巨匠バルトルド・クイケン リサイタル

リサイタルの会場となった横浜みなとみらいホールの小ホールは、素敵なシャンデリアと木製の壁の色合いがマッチして、ヨーロッパの貴族たちのサロンを思わせる雰囲気の良い空間です。
収容人数440名と小ホールにしては広い空間ですが、チェンバロとトラヴェルソの一音一音が綺麗に舞い、「トラヴェルソは音が小さい」というイメージが全くありませんでした。彼のトラヴェルソは、滑舌がすごく綺麗で、低音部も非常に美しく響きます。クセもなく、素直なそして生まれたてのような新鮮な音がするんですね。言葉にするのが難しいのですが、1つ上の次元から聴こえてくるような感じです。

プログラム

フルートと通奏低音のためのソナタ ホ短調 BWV1034
フルートとチェンバロのためのソナタ イ長調 BWV1032
フルートと通奏低音のためのソナタ ホ長調 BWV1035

休憩

無伴奏フルートのため野パルティータ イ短調 BWV1013
フルートとチェンバロのためのソナタ ロ短調 BWV 1030

Barthold Kuijken / フラウト・トラヴェルソ
渡邊順生 / チェンバロ
2022年12月11日(日) 14:00 横浜みなとみらいホール 小ホール


クイケン氏の著書:バロック音楽の演奏法 

インディアナ大学から出版された著書"The Notation is not the music"は、日本でも『バロック音楽の演奏法』として翻訳され2018年道和書院より出版されました。
近年、古楽への注目が集まっている中、古楽演奏一般について、過去の音楽をどう研究し理解して、どのように表現すべきかー

過去の古い文献を探究し、長年の実践から得たバロック音楽に対する姿勢、演奏への取り組みについて、トラヴェルソをほぼ独学でマスターしたクイケン氏だからこその、俯瞰した視点から書かれています。プロでなくとも、学ぶべきところはたくさんあるのですが、「演奏者の態度」という項目で印象に残ったところについてご紹介します。

演奏者の態度(ポジション)をわざと下記の四つの態度―東、西、北、南―
で極端に表します。
・北 作曲家、同時に聴衆よりも、立場が上だと信じている演奏者。
・南 自分のことを作曲家や聴衆の奴隷だと考えている演奏者。
・西 聴衆に最も多くの関心を払う演奏者。
・東 作曲家により多くの関心を払う演奏者。

演奏者の多くは直感的に、より中庸な、あるいは四つが混じりあったポジションを取っている。しかし、もっと意識的に自分のポジションを決めることは、新しい可能性を開くことにつながると思う。

私はたいてい自分のポジションを楽章ごとに変える。ゆっくりした外交的な第一楽章には、「任意の変更」と「本質的な方法」を贅沢に使うので、北の傾向がある。第二楽章は、しばしば豊かなフガート書法になっていて、より作曲家に近い東側になりがちだ。一般的に柔らかく内向的で、親密な第三楽章(シチリアーノやドルチェなど)では、より西にいる必要がある。北からあまりに遠くにいると、私は場違いだと感じてしまう。最後のジグや他の急速な舞曲には、私は聴衆のかなり近くに、東ではなく西に立ちたい。

略)もし私が作曲家の名前のみを前面に出し、個としての自分を参加させず、私自身のいかなる貢献も避けて演奏するなら、私は自分を消してしまうことになり、説得力あるコミュニケーションをもたらす良い態度(=ポジション)に位置することはないだろう。私の演奏は、まるで私自身がその作品を作ったばかりであるかのように響くべきである。それは新鮮な淹れたてのコーヒーのように香るべきで、昨日の残り物の温め直しではいけない。

バロック音楽の演奏法 著作:バルトルド・クイケン,越懸澤麻衣 

確かに、おっしゃる通り、納得の新鮮な香り豊かな音色でした。

今年、2024年の秋11月に、また来日していただけるようです。
日本のお弟子さんたちも参加する素敵な企画だそうなので、今から楽しみにしたいと思います。

2022年12月5~8日、ワキタ・コルディアホール (大阪)で録音された国内プレス(キングインターナショナル)のCDです。今回の収録曲について、まるで演奏したことも聴いたこともないような気持ちで全ての資料を検証し取り組まれ、そのことでまた非常に多くのひらめきを与えてくれる経験となったそうです。ライナーノーツでは、今回収録した曲それぞれについて検証結果としての疑問点がたくさん書かれています。

クイケン氏の実際に演奏している動画が少ないのですが、《音楽の捧げもの》よりBWV1079 Fuga Canonica in Epidiapente。
いつか吹けるようになりたいですが、運指が大変でとてもとても難しいです。。。


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