初級者向け教材その3 ブルグミュラー
クラシックピアノを基礎から習う場合、高い割合で使用されているのが、「ブルグミュラー25の練習曲」。この教本は、一通り読譜の基礎が身についたあと、様々な音形や曲想に触れながら、基礎を固めよう!といった感じのものだ。初等教育科で使用されることも多く、小学生から大人まで、幅広く使われている。
この本は練習曲とはいいながら、一曲ずつタイトルが付き、無味乾燥なテクニック教本とは違う。「アラベスク」「牧歌」「バラード」「貴婦人の乗馬」辺りなどは、かなり知られているように思う。
ブルグミュラーの使い勝手の良い点は、読譜が楽であり、学習者を選ばないところだ。古典和声のみが使われ、奇を衒った音の配列は一切登場しない。誰にでも分かりやすく、弾きやすく、そして教えやすい。独習も十分可能で、練習すれば必ず弾けるようになるレベルで作られている。小学生の手の大きさで対応できる和音しか登場しないのも、人気の高い理由かもしれない。
デメリットは、和声的に貧弱で、リズム変化が少なく、面白味に欠けるところだ。また対位法で作られた曲が圧倒的に少ない。人によっては、こういった曲を弾くのは苦痛でしかなく、練習曲と割り切らなければ、弾く気がしないかもしれない。バイエルなどの古典教本からブルグミュラーに進んだ場合は相性が良いと思うが、バスティンやギロックなどから移行した場合、拒否反応を示すこともありそうだ。
ではブルグミュラーが「練習曲」としてどのくらい効果があるかというと、単にテクニック習得が目的であれば、ハノンなどの方が余程効果があると思う。ハノンは、とにかくしらみつぶしに、あらゆるテクニックを鍛えるようにできているからだ。ブルグミュラーはあくまでも、曲を弾く中で、必要に応じてテクニックが身に付いていくような教本だ。
それでは「曲集」として優れているかというと、単純な音形が多く、この教本をメインに表現を磨くのは、少々難しいと思う。同様のレベルでも、カラフルなロマン派、近現代を味わえる曲集はたくさん存在する。ブルグミュラーばかりやり過ぎると、美味しい部分を知らずに、クラシックピアノに飽きてしまうかもしれないのだ。
クラシックピアノを習得する場合、一昔前は、まずは初級者向けの古典教材をきっちりやる、という教え方が多かったように思う。けれど、何でもすぐ視聴できる今、それに耐えられる子どもがどれだけいるか分からない。いつまでもお子様ランチばかりでは飽きてしまう。出来ることなら、最初から色んな味を知った方が、クラシックピアノの魅力も伝わるのじゃないかと思う。
ブルグミュラーは確かに幅広く支持されてきた、優良ピアノ教本。ただ優良過ぎて、もっとクセの強い曲も並行してレッスンに取り入れてあげないと、当たり障りのない音楽しか弾けなくなってしまうんじゃないかな。クラシック音楽には甘味も苦味も酸味も辛味もある。好みを決めるのは、とりあえず全ての味を体験してからでも遅くはない。
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