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演奏を上手く聴かせるコツ その2

前回は、曲の個性を把握する重要性を書いたが、今回はあらゆる曲に当てはまる、上手く聴かせるコツを挙げてみる。

ある程度の長さを持つ曲は、最初から最後まで最大限の集中力を保ったまま弾くのは大変だ。何十年も演奏していると、無意識に力配分がなされるので、何も考えずとも滞りなく弾けるが、それでも集中すべきところは集中する。曲には丁寧に弾きたい箇所という部分があり、そこが上手いと全体的に上手く聴こえる。逆にそこが疎かだと、せっかく他の部分が完璧でも、上手くは聴こえないものだ。

それは、曲の繋ぎ目、移り変わりの部分、つまり各セクションの終わりの部分、そして曲自体の終了部分である。もっと細かくいうと、フレーズの最終音、曲想の切り替わる部分の最終音形なども含め、とにかくそれぞれの終了部分だ。この終了部分は、特に子どもの場合、適当な弾き方になってしまうことが多々ある。

子ども達の発表会など聴く機会があると、曲自体は結構上手に弾いているのに、最後の音を弾くや否や、これで終わったとばかりにぱっと手を離し、余韻も何もなく、ぶっきらぼうに終わらせてしまう演奏に出くわす。低年齢のうちは、弾きながら自分の音を聴くというのが、すごく難しい。練習して動作自体はどんどん上達するのだが、あくまで動作の方へしか意識が向いていないため、自分の出した音を客観的に聴いていられないのだ。ピアノは菅弦楽器と違い、一度音を出す動作をするとそれで終わりなので、何もせず音を聴いている時間が結構ある。子どもにとって、動作が終わればそれで終わりであり、持続する音に集中を向けるのは至難の技なのだ。

逆に大人の場合、初心者でもこのような弾き方になってしまうことはほとんどない。大人は音楽が何であるかを理解しており、最初から自分の音を客観的に把握できるからだ。そのため、闇雲に練習するというよりは、自分の理想に合うように近づけていく、という方法で上達していく場合が多いように思う。

録音してみると、自分の音を客観的に聴くことが可能だ。この時、各セクションの終了部に注目して聴いてみる。例えばソナタ形式なら、主題部分の終わりや、展開部から再現部へ戻るところなどだ。音楽の枠がしっかりしていると、全体がまとまって聴こえる。ここがいい加減だと、忙しない印象になったり、音楽が詰まった感じに聴こえたり、取り止めのない印象に聴こえたりする。

大きなまとまり部分に問題がないようであれば、もう少し細かく、フレーズごとに注目してみる。通常フレージングはスラーで表されており、この最終音、最終部分を丁寧に弾くことで、全体が上手く聴こえる。特に長いフレーズ、ロマン派的な曲想の場合、かなり効果的だ。cresce. の場合もあれば、dim.しながら、或いはrit.が加わることもあるだろうが、最後を気を抜かずに弾く。最終音の処理がまずいと、他が素晴らしくても音楽の印象が損なわれてしまう。

音楽の繋ぎ目を注意深く弾く、フレーズの終わり、各セクションの終わりを細心の気配りで弾く。これだけで、結構上手く聴こえるようになるものだ。


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