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minor chordの美学① 自然で温かい和音

倍音列の中に自然に登場するMajorコードと違い、三度が半音低いminorは自明な和音ではないように思える。

M7 omit1

純正律で考えれば、ドミソのミとソが短三度であり、周波数比にして5:6であるから、minor(ラドミ)のコードは10:12:15である。
とすると、差音バスとして鳴るのは最大公約数の1であり、ラドミを鳴らすと3オクターブ下のファが鳴ることになる。つまり、AmとはFM7 omit1である

真ん中のドを含むAmを考えると、A3が220Hzなので差音バスのF0は22Hz、可聴域ギリギリの音域である。これが絶妙に丁度いいのだ。


差音と倍音

対位法で連続八度・連続五度や並達八度・五度が禁則である理由は、その響きがキツすぎるからである。完全八度は下のパートが強調されるし、完全五度にしてもただ下倍音が強調されたように聴こえる。響きとしての豊かさは期待できない。

響きの豊かさのためには、ハモりすぎてはいけないのだ。例えば、「君が代」で有名になったブルガリアン和声は全音や半音のぶつかりのようなものを好んで用いる。

「ハモっていない音」=「最も簡単な整数比で近似した時に小さな数にならない音」というのは、逆に考えれば倍音のバリエーションが豊富であり、温かく丸い音が鳴るといえる。


かといってあまりにも唸ってしまうと響きが濁る。和声学において、ある程度以下の低音でのハーモニーは禁則である(インターバルによって限度は違う)。尤も、Low Interval Limitは差音の音域だけの問題ではなく、倍音の不協和の問題も大きいのであるが。


「自然な」和音

いずれにせよ、minor chordというのは、調和しすぎず、かといって濁りすぎず、カオスとコスモスのギリギリのバランスを保ったコードであると思う。

以下の図は、純正律Majorと純正律minorの波形である。赤がMajor、青がminorである。横軸は時間で、根音が1Hzとなるようにした。

Majorは2オクターブ下の差音バス(周期4)がはっきりと見て取れる。そして、定常波で言う節のようなものも見える。それ故に、比較的「人工的な」音であると主張したい。

対してminorは周期10の差音バスが存在するのだが、その間も高次の倍音がしっかり鳴っており、より「自然な」音が鳴っている。環境音やホワイトノイズは非整数次倍音が多く含まれるが、それに類似した感覚を得る。


自然で温かい和音

今回は差音と倍音からminorコード自体の響きを解釈した。

次回は和音単体の響きではなく、文脈の中で鳴るminorについて、もう少し深めていけたらと思う。

次回↓



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