ディープパープル1975 /Deep Purple Come Taste the Band - 35th Anniversary Edition 2010「Bolin-Paice Jam」&「Same in L.A.」

超老舗ハード・ロック・バンド、ディープパープルが1度目の解散をする直前のラスト・アルバム。2010年に発売35周年を記念してリミックスとアウトテイク2曲が追加された作品。


Come Taste the Bandの評価

2024年現在バンドのメンバーは第9期まで変遷している。第2期のメンバーと音楽が核となり、これが1984年の最初の再結成以降変わらない基本路線として続いている。

しかし黄金の第2期メンバーの固定化が続けば続くほど、第4期の「Come Taste the Bnad」が異色な存在としてどんどん際立っている状況だ。

現在海外でも「これはパープルではない」が枕詞(まくらことば)として始まる。「しかしオープン・マインドで聴けば非常に素晴らしい作品」という歯切れが微妙で今後も覆りそうにない評価になっている。

ドキュメント映像でベーシストのグレン・ヒューズと古参メンバーのキーボディストのジョン・ロードの本作品のコメントの1部も併せて参考とした。アウトテイクの2曲をレビュー。
YOUTUBEで視聴可能

Deep Purple / Come Taste the Band 1976- 35th Anniversary Edition 2010


Bolin-Paice Jam

文字通り新規加入のギタリスト、トミー・ボーリンとドラマーのイアン・ペイスの2人だけのウォーミング・アップのジャム・セッション・ナンバー。

作曲の仕込みや既存曲を仕上げるのが目的では無く、準備段階の録音が残されていたテイク。
楽器の鳴動やエフェクターの機材の状態確認と少し強引に音出ししてみたり、様々なフレーズを繰り出したりなど各のコンディションをチェックを行う目的が1つと、2人だけで演奏の波長やコンビネーション、クセなどノーアイディアで実際の音合わせによって身体に染み込ませるなど多岐に渡る項目で擦り合わせを行っている。

これらの状況を何となく想定して聴いてみると、少し違った音の風景が見えてくる。

しかし擦り合わせにしては1つの曲のような演奏に歌心が有る有意義なテイクが聴ける。

トミー・ボーリンの機材

トミー・ボーリンは1950年代のメイプル指板のストラトキャスターのセンタピックをメインの甘めなサウンドと、(空間系を揺らす)エコープレックスとファズ(最古の歪み系エフェクターでその卑猥に過激度高い歪みとビンテージ感が共存)とマーシャル製のアンプが本作品でのセッティング。

このテイクはアルバム作品よりも良く分かるが、シングル・コイル・ピックアップのストラトキャスターのギターの音がギブソン社のレスポールに近いパワフルで太い音がはっきり聴ける。

予備知識が無いとレスポールを弾いてるのかと錯覚するくらい音が大きく図太い。

エコープレックスは空間系のディレイ効果を狙って繋いでいるのもあるが、実はこの機材は繋ぐだけでプリアンプ的に音の輪郭を大きく出来る。

加えてファズも繋げて歪ませるのだが、ここは全開に歪ませずにオーバー・ドライブ程度にさせることで「音の暖かみ」を温存したり、「アナログなビンテージ感」と「多少ダークになる音」など音の中域を追求していたのだと思う。
足りない音量は前述のエコープレックスでクリーン・ブースターとして彼は画期的に使っていた。

使用するピック
以前アーカイブのインタビュー記事でトミー・ボーリンはヘルコ製のピックの使用を言及していた。そこからさらに興味深いのが、ピックの硬さはハード(1つ下はミディアムという硬さ)を選んでそこから手を加える。


このハードのピックを何回も嚙むというのだ。

噛むことで歯形が滑り止めになるのだ。さらに噛んで柔らかくしてミディアム相当の硬さにし、ファンキーなカッティングをし易くするのだ。
加えてティアドロップ形状の先端では無く横の楕円部分で弾くことでより「マイルドな音」が出せてこの音が好きだとコメントしていた。アルバム全体にも言える作品の重要なキー・ポイントだ。


本アウトテイクのトミー・ボーリンのギターのフレーズがジョニー・ウィンターの影響が大きいことに気が付いた。

キーをEにしてギターのスケールを満遍なく弾いている。
ロー・ポジションからハイ・ポジション、開放弦や6弦のボトムをバチンバチンと強めに負荷をかけてみたり、6弦から1弦まで、逆の1弦から6弦までオルタネイトにピッキングしたりなど様々な試みを行っているが、メロディになっているように聴こえる。聴こえるからこそ陽の目させたのだと認識できた。

その演奏中の手癖のフレーズと3連速弾きの畳みかける前のめり加減とチョーキングのタイミングがジョニー・ウィンターに酷似していることで個人的な見解が点と線で繋がりドキドキしてきた。。

ジョニー・ウィンターはギブソン社のファイアーバードを1970年代メインに使用していたギターなのだが同じギブソンのレスポールと違って、「ミニハムバッカー」搭載のギターをチョイスしていること。

「ファイアーバードは(ミニ・ハムバッカー)ギブソンとフェンダーの中間の音がするから好きだ」とインタビューで答えている。

ここで導き出したのはトミー・ボーリンはシングル・コイル・ピックアップのフェンダーのストラトキャスターでギブソンのハムバッカー系の太い音をファズとエコープレックスを使ってサウンドを追求していたということなのだと思う。

ジョニーのフェイザーの揺れ系のサウンドやミニ・ハムバッカーなどの接近と彼の音源をひたすら聴いてギターの練習をしていたのだろうと推測してみた。


折角なのでさらに掘り下げます。

ストラト+ファズ+エコープレックスの組み合わせは、1980年代にアイバニーズのチューブ・スクリーマーというエフェクターが登場するとスティービー・レイ・ヴォーンのストラト+チューブスクリーマー(場合によって2連結)をメインに使うのと狙っている点がほぼ近いこと。

もうひとつ、ジェフ・ベックのストラト+ディストーションのエフェクターのRATの組み合わせも遠く繋がっている。

2人のギタリストが追求していたスタンスを1970年代の現行の機材で実現してしようとしていたのだと一気通貫してしまった。

「Come Taste the Bnad」の時代の先を行ってしまったファンキーなハード・ロックは細かく計算されたセッティングに秘密があり、ディープパープルじゃないが完成度の高さは認めざるを得ないという、ストレートに公言出来ない原因の一つに彼の独特のサウンド・セッティングからくるのも大きいと言える。


イアン・ペイスのドラム

ドキュメンタリー動画のコメントで

ジョン・ロード
「イアン・ペイスのドラムはキャリアのピークに達していた」

グレン・フューズ
「イアン・ぺイスは明らかに(レッド・ツェッペリン)のジョン・ボーナムの上を意識していた。」

コンシダー、モア・ザン・ジョン・ボーナム(通称ボンゾ)と字幕に出ていたのがキーワードだと直感した。

「モアザン ジョンボーナム」はツェッペリンの当時の多様性のある音楽に対するボンゾの音楽の順応性や発想力をとても意識していたのだ推測する。

「発想力の訓練」とは、練習、反復、推考をひたすらの繰り返すことだと思う。

このタイミングでリッチー・ブラックモアとは全く異なるギタリストが現れたことでイアンペイスは殻を突き破り、1段違うステージに到達するチャンスを得たと捉えていたのだろう。

「Come Taste the Band」のイアン・ペイスのドラミングは作品の貢献度が高いし、大げさに言うと何か別人になったような躍動感とスイングとキレが随所に聴ける。

それが、ジョンロードのキャリアハイ発言に繋がり、惹いてはメンバー全員が生き返り解散の危機を一時的でも回避出来たのだと思う。

本テイクからあらゆる角度から推測や所感がとめどなく出て来る意味で貴重な参考音源であるのは間違いない。


Same In L.A.

メロディが第2期の「Balck Night」に似ている。そしてリリースされた作品でなかなか見いだせないジョン・ロードのキーボードの存在感が際立っている。
本テイクはほぼ完成されていいところまで来て、カッコよく仕上がっている。

しかし、リッチー・ブラックモアのギターがあってこそその平行線上にジョン・ロードのオルガンやキーボードが光る。これがセールス・ポイントだった。ギタリストが変わったことでこうした曲の機会、勝ちパターンが無くなってしまった。

あと一歩までいいところ来ていたが見送られてしまった理由を様々推測して聴くとこちらも非常に興味深いテイクになっている。

ジョン・ロードは「Come Taste the Band」で作曲が1曲しかなく存在感が極端に低い。ドキュメンタリー映像では「パンク・ロック」という言葉が頻繁に出て来るが、オールド・ファッションになってしまう危機感というのも演奏の貢献する動機付けに影響をしているのかもしれない。

またジョンのトミー・ボーリンに関するコメントは眉間にシワを寄せたシリアスな表情が多い。何なら思い出したくもない感じだ。

作品の大幅な変化の元凶への不満以上に才能があるのに、ディープパープルに参加する多額の契約金が薬物に溶けて行くことが看過出来ない点と、その生活態度が破滅の道に向かっていることに対しての年長者からの怒りだと思われる。

一気に大きな変化の渦がバンドに訪れ、1次的にも危機を回避するも1年ほどで空中分解状態で解散していく背景でも完成度高く、スリリングな音源が聴ける貴重なドキュメントの2曲だ。

終わり

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