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The Black Crowes / 1972

結成当初のオリジナルのバンドメンバーはクリス&リッチー兄弟の現在2人のみ

2019年に3度目の再結成を経て、「1972」というこの数字の年にリリースされたカバー6曲が2022年5月にリリースされた。アマゾン・ミュージックで視聴可能。

ブラック・クロウズとはイコール兄のクリス・ロビンソンの声だ。
声は楽器ではない。よってバンド名とクリスのボーカルを優先するために弟のリッチ・ロビンソンは諸々を飲み込み、「ブラック・クロウズ」という看板を今後存続させていく現実案を選択した。

打開策は1点

兄クリスは過去のインタビューで「弟とは哲学的観点からだと何十年も話してない」という主旨の発言をしている。※弟はそうじゃないかもしれないが。兄とバンドで付き合っていくのは簡単ではない。しかしボーカリストとして余人をもって代えがたい。

今後バンドを存続していくには兄のクリスに気持ち良く歌ってもらうかだ。
兄の急な心変わりで解散という事態も頭の片隅に入れながら。。

逆に方針ががはっきりしたとも言える訳で弟のリッチは今回の作品に関して、「僕らのバンドをスタジオに戻すには、ロックンロールの祭典でなければならなかった。」

この発言が6曲のリリースを端的に表現している。

The Black Crowes /「1972」

Rocks Off(The Rolling Stones)
The Slider(T.Rex)
You Wear It Well(Rod Stewart)
Easy To Slip(Little Feat)
Moonage Daydream(David Bowie)
Papa Was A Rollin' Stone(The Temptations)

曲目感想

Rocks Off /(The Rolling Stones)

「メインストリートのならず者」のアルバム冒頭1曲目を選択。クリスの
イントロの「Oh Yeah!」、これミック・ジャガーの掛け声をずっと前からやりたかったんだだなと思わせてくれるポジティブなパフォーマンスに聴いてて(何故か)安堵する。
テレキャスターの音作りはリアルなあのストーンズの音に肉薄するためにいろいろ考えてセッティングした形跡が伺える。
フレーズより言語化できないニュアンスが結構難しいがひとえに兄に気持ち良くうたってもらうためにはなるべく本物に近く再現する音が重要事項であるといえる。

一方でドラムのチャーリー・ワッツのあのスイング感に迫るのは非常に難しい、独特なサウンドで有るのも分かる。

The Slider /(T.Rex)

ギターの歪み加減は、音がつぶれるギリギリのセッティングで左右のチャンネルから2本のギターが聴こえる。単発リフがこの曲を最後までけん引してる。ハムバッキングのゴールドトップのレス・ポールが良く鳴っている。

オリジナルと違いクリスが機嫌よく溌溂と歌っている。

You Wear It Well /(Rod Stewart)

クリスの歌い方、節回しがロッド・スチュワート似てる。以前から思っていたが、何ならスタンディング・マイクの佇まいも似ている。
相当な割合で影響受けているボーカリストであるのは間違いない。
ロッド・スチュワートの楽曲も機会があれば、歌いたかった、それが今回実現した嬉しさが伝わっている。

12弦アコースティック・ギターが終始鳴っている。
オリジナルとかなり音色が似ていて、この点は聴いてて心地よい。ここも残響や質感の音作りに対して細心の苦心が伺えて丁寧だ。
ギターはテレキャスターだが、テレキャスにマッチさせたカントリー寄りのフレーズを終盤弾いている。

Easy To Slip /(Little Feat)

この曲はボーカルが弟のギタリストのリッチが歌っている。全キャリアの中でも珍しいメインボーカルだ。
ローウェル・ジョージの歌い方に上手く似せてきていている。
オリジナルのリトルフィートはバンドのサウンドも気持ち良いグルーブを聴かせてくれるが、このブラック・クロウズのバージョンもそれに近いグルーブで良い仕上がりだ。テレキャスターのメイプル指板特有のブライトで粘りのある音のギターソロも聴きどころだ。
また、アコースティック・ギターは珍しいゼマティスなので注意して聴きたい。

兄のクリス・ロビンソンは珍しくバック・コーラスで献身的に支えている。
こんな場面も兄弟の人間関係の修復のバロメーターだったりする。

Moonage Daydream / (David Bowie)

デビッド・ボウイのジギー・スターダストの収録曲をカバーで取り上げている。
これは勇気の1曲で、オリジナルはサウンドがパーフェクトであるからだ。
例えばイントロからエレキと並行して鳴っているアコースティック・ギターの鳴動加減や音の配置とか。
後半のミック・ロンソンの独創的なフィードバックを混ぜたエキセントリックな屈指のギターソロとか。。

よってこの曲はオリジナルの肉薄ではなく、アコギ除外してパンキッシュなアレンジで挑んでいる。
そういえばデビッド・ボウイとクリス・ロビンソンは共に細身でどことなく歌い手としてのセクシャルな部分が似てなくもない。

Papa Was A Rollin' Stone /(The Temptations)

最後はモータウンのテンプテーションズのグラミー賞曲を選曲。
ストリングスやトランペットは排除し、オリジナルとの真っ向勝負は避け、いかにクリスがソウル・ミュージックを気持ちよく歌うかに主眼を置いている。「この曲カッコいいからカバーするんだよ」という愛が伝わるし、楽しめる。

総論

ロビンソン兄弟の実家には大量のアナログ・レコードがあった。
ロックでもソウルでも何でもクリスは血となり肉となり消化して、兄はソラで歌えるのだ。兄弟は幼少のころから浴びるように聴いていたのだ。

どんな曲でも自然と愛をこめて歌うことができる「ロックンロール狂信者」は結局兄以外いない、これを再認識し、そんな兄と付き合っていく「新たな覚悟」がこの6曲から感じ取れる。

そしてブラック・クロウズというバンドは結成当初からオリジナル曲と同様にカバー曲も同様にに愛情をこめて演奏していたバンドなので6曲のカバー曲も立派な1枚の作品となっている。

終わり


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