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音大生の就活って、音楽から逃げることなの?

音大生の進路って、むずかしい。

高い学費を払って、音楽を学ぶために入ったはずの音楽大学。4年間音楽と向き合う中で、「自分は音楽で食べていけるのだろうか?」「やっぱり音楽は向いていないんじゃないか?」「でも音楽以外に何もできないし……」なんて言葉、頭の中に死ぬほど浮かんだことがある人も少なくないのではないでしょうか。

僕は音大のピアノ科を卒業したあとに新卒でweb系企業に務めていました。しかし色々あって、現在は音楽大学の大学院に通いながら演奏・レッスン・編集・ライターの活動をするという「半社会人・半学生」の生活を送っています。

ちょうど就活がオンシーズンですし、大学の後輩を見ていても進路に悩む人が多くいるように感じます。そこで世間一般でいう“普通”の生き方とは少し違う道を辿ってきた僕だからこそ感じた、「音大生の就活」に対する僕なりの答えをまとめてみました。

就職を考えたきっかけ

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音大に通っていて、なぜ就職をしようと思ったのか。その理由は奨学金と、外の世界への興味、大きく2つです。

奨学金の返済に関してはそのままですが、当時の僕は自身のピアノ演奏以外にもさまざまなことにも取り組んでいました。たとえば友人と組んでいたグループで子どもたちとの演奏会を定期的に企画したり、学内で行われたパフォーマンスコンテストなるものに「ピアノ✗ヲタ芸」という企画で乗り込んで入賞してしまったり、自分が所属していたゼミではゼミ長を務めさせていただいたり、と。

自分の中にあった「ピアノを演奏する」という根本から自己表現の手段が枝分かれしていき、そんな自分を外の世界でも試してみたかった……そんな気持ちが2つ目の理由です。

しかしもしかしたら、「自分よりも上手い人や凄腕の人が沢山いる中で、自分はやっていけるのか?」という自信のなさが一番だったのかもしれません。ピアノはもちろん大好きですし、コンクールの全国大会で入賞したこともありましたが、決定的に音楽だけでやっていく覚悟と自信が自分にはなかった。ある意味僕は、楽しい部分だけの面で”音楽”を見ていて、音楽を嫌いになりたくなかったとも言えるのかもしれません。

怒涛の社会人1年目時代

無事に就活を乗り切ったと思ったら、新卒の1年間は僕にとって怒涛の年でした。

冒頭にも書きましたが、新卒で入ったのはweb系の企業。そこで配属されたのは主に自社メディアの記事広告を売る営業部署でした。営業の仕事は主に提案書を作って訪問に行ったり、広告案件の進行(編集部と代理店の調整役)をしたり、広告の計測期間後にはレポートを作ったり……と、一般的な“営業“っていうイメージとは似て非なるものかもしれませんが、営業です。

しかしここで大きな葛藤が生まれます。

「ピアノを演奏する」という根本から、自分で企画したり、自分の手を動かして何かを生み出したりすることに生きがいを感じていた僕にとって、営業部での仕事は今までの自分とは対極の位置にあるもののように感じてしまったのです。「置かれた場所で頑張れ!」とはよく言いますが、そんな気持ちで日々を過ごす中で、心と体のバランス感がどんどん崩れていってしまいました。

その結果、気づけば会社を休んで心療内科のお世話になっていました。

この頃は会社の皆さんはもちろん、周りのお世話になっている方々にも本当に心配や迷惑を掛けてしまいましたが、今考えてみればこの1年間が今の自分へと繋がる転機だったのです。

大学院に通いながら働くこと

そもそも自分は音楽で何がしたかったのか、音楽とは自分にとって何だったのか、そして自分自身は一体何がしたいのか……。脳みそが千切れそうになるほど考えました。

周りにどれだけ上手くて凄腕な人がいようと、僕はやっぱり音楽で人とコミュニケーションをとること(そして演奏すること)が大好きで、自分の手で何かを生み出して人に伝えることが大好きだという気持ちは大学生の頃からずっと変わらなかったのです。

そうして今は「大学院に通いながら働く」という道を選び、現在は演奏・レッスンだけでなく編集者・ライターとしても活動をしています。

大学院に入った経緯はさまざまな要因があったのですが、「教えること」を仕事にするにあたって、学んでおきたかったことがまだまだあるということは非常に大きな要因でした。

自分の中で「音楽の位置づけ」を考える

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学部生だった頃、「就職という選択をした自分」に対して後ろめたさを感じてしまうことも正直ありました。もちろんずっとお世話になっていた先生とも言い合いになりましたし、ずっと音楽をやってきたからこそ音楽から離れてしまう寂しさもものすごく感じていました。

ただ、「音大にいるから音楽だけやるべきだ」というのは何も考えていないんじゃないかなと僕は思うんです個人個人の可能性なんてさまざまなことにチャレンジしない限り広がらないし、見えてこない。でも“音大にいるから”という理由だけで外の世界に自ら目を閉じてしまうことは、ある種可能性を狭めてしまうことに他ならないとも思うのです。

音大生に「就職した方がいいよ」と頭ごなしに言うつもりは毛頭ありません。しかし、音楽をずっと続けるにしても、音楽で学んだことを生かして何かの活動をするにしても、自分の中で「そもそも音楽ってどういう位置づけだったのか」をよくよく見つめ直すことが、今後生きていく上で大切になってくるんじゃないかと思うんです。

たとえば「自分は演奏が好き!」ということひとつにしても、そもそも人前に出て表現することが好きなのか、ただ弾くこと自体が好きなのか、誰かとアンサンブルすることが好きなのか。はたまた演奏を通じてお客さんとのコミュニケーションが広がることが好きなのか、聴いてくれる人が喜んでくれることが好きなのか……さまざまな方向性があります

その内容によって、一言で「僕・私は演奏することが好きなんです!」といっても根本にあるものは異なってきます。

そのため「どうして自分は音楽が好きなのか」「音楽の好きな部分はどこか」「どうしてその部分が好きなのか」という3点セットで考えてみると、自分の中での「音楽の位置づけ」が具体化されていくのではないかと思うんです。その先にあるのが就職という選択なのか、自分のように働きながら音楽も続けるという道なのか、はたまた音楽一本でやっていくのか、行く末は人それぞれですが。

だからあくまでも音大生の「就職」はひとつの自己表現の手段(※ただお金だけ稼げればいいや!って人はまた少し違うけど)であって、別に音楽を捨てるわけでも、音楽から逃げるわけでもないと僕は思います。

一度立ち止まってみることの大切さ

もしかしたら「音楽の位置づけ」がハッキリしたところでその先の進路は簡単には納得するものが見つからないかもしれません。しかし、「自分は音楽しかやってこなかったから」と盲目的になる前に、一度立ち止まって他の可能性を考えるきっかけを持つことは、音楽を続ける上でも持っていて損はない視点のように感じます。

就職をしてもしなくても、「なんか違うな」と思えば何回だって一歩下がってやり直したらいいんです。後になって「あの時こうしておけばよかった…」と思うより100倍マシです。それよりも失敗を恐れて何もしないことの方がよっぽど怖いです。

僕は一回社会に出て、大学院に戻ってきたタイミングでようやくこんなことを考えているのですが、学部生の頃に気づけていたら良かったなぁ……なんてことも正直考えます。だからそんな僕の経験が、今を生きる音大生にとって何かしらのヒントになってもらえたら本望だと思いながら書きました。

偉そうにガツガツ書いてしまいましたが、何か不明点(気になるところ、これは違うんじゃないか、進路悩むんだけど)等があれば、なんでも聴いてもらえたら嬉しいです。それに自分はクラシック寄りの音大生目線で書いているので、「音大生」とは言っても価値観が当てはまらない方もいらっしゃるかと思いますが、そこはあしからず……!

そして音楽を続けるか辞めるかという0か100かの理論で考えがちな人も多いかもしれませんが、「こんな生き方をしてる人もいるんだ〜」くらいに思って頭の片隅に留めておいてもらえたら幸いです◎。

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