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#64 テイラー・スウィフト『1989(テイラーズ・ヴァージョン)』

鈴木さんへ

 まさにフレッシュ感ですね。もちろんそうなんだけれど、現役感が半端ない。全然枯れていないよね。キラッキラしている音楽。なんていう人達なんでしょうか。チャーリー・ワッツを失い、大きな痛手を負っているなかでのこの新作ですよ。タイトルも見ずに聴くなかで、『Live By The Sword』で涙がこぼれてきたので、チェックした歌詞から私なりに彼らのメッセージを受け取った気になりました。しかもこの曲にはチャーリー・ワッツ、ビル・ワイマン、エルトン・ジョンが参加しているとのこと。
 個人的にはウン十年前に某レコード会社に勤務していた際の、ミック・ジャガーのソロ公演の騒動を思い出しました。最近じゃ、人の名前が出てこない、昨日のことが思い出せないと嘆いているのに、鮮明に当時のことが蘇ってきました。今だからこそ言えることだけれど、いい修業時代でした。

テイラー・スウィフト「1989(テイラーズ・ヴァージョン)」

 テイラー・スウィフトが自身の旧譜を再レコーディングするプロジェクトの4作目で、2014年にリリースされた通算5枚目のオリジナル・アルバム。なぜ再録音することになったのか、そこのひどい話への憤りを超えて、当時の新鮮な感情を失わずに再び収録曲を歌うテイラーを心からリスペクトするので、純粋な新作じゃないけれど、今回ピックアップ。もちろん新曲も5曲追加収録されている。

 タイトルになった『1989』とはテイラーが生まれた年。そして、この時のテーマは、80年代後半のポップ・ミュージックだった。シンセっぽい音で始まる1曲目の『ウェルカム・トゥ・ニューヨーク』など、当時のエレクトロポップを彷彿させる。でも、2014年当時に80年代ポップが流行っていたという社会的な背景はない。まさにいきなりの80年代ポップへの傾倒だったので、それを彼女に聞くと、「理由とか、きっかけはなく、ごく自然にのめりこんでいった」結果、自分が生まれる前の音楽がテーマになったということだった。その手助けをしたのがプロデューサーのマックス・マーティンだけれど、”好き”という理由からのアイディアをアルバムに具現化させていくのに、彼女は、どれだけ80年代後半のポップソングを聴きまくったのだろうか。そう思わずにはいられない作品だ。

 もちろん模倣なんかではなく、インスパイアされたオリジナルだとあらためて思わせてくれるのが今年から来年にかけて行われるツアーであり、それをいち早く観せてくれる映画『テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR』だ。17年におよぶキャリアのなかで発表したアルバムを「時代」ととらえて、全作品からの楽曲を当時のビジュアルを再現させながらパフォーマンスする。その映像からも彼女にとって『1989』は、80年代ポップに夢中になっていた時代だったのだと伝わってくるし、楽しませてくれる。
 最後にこのテイラーズ・ヴァージョンの大ヒットを受けて、焦ったメジャー・レーベルは、10年間はこのような本人による作品、楽曲の再レコーディングを禁止する動きに出ようとしているそうだ。また、映画を観た限りだけれど、これまでのコンサートの形式を覆すもので、アーティストにとって刺激になるも、同時に脅威にもなっていると思う。
 映画は、連休最終日の5日まで公開されているので、ぜひオススメしたい。
                             服部のり子 






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