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#78 エルミーン『Marking My Time』

鈴木さんへ

 まだ強烈な余韻で頭がクラクラしています。グラミー賞で4回目の最優秀アルバム賞受賞直後のテイラー・スウィフトの来日公演初日のライヴレポートをUdiscoverに寄稿したので、良かったら読んでくださいな。
 鈴木さんが先週取り上げたザ・ラスト・ディナー・パーティーですが、BBCのSound of 2024でも1位でしたね。5人がそれぞれ好きな衣装を着たアー写を最初に見た時、スパイス・ガールズの再来かと思ったら、ロックバンドなんですよね。いろんな要素を感じますが、70年代のアート・ロックの影響も受けているとか。個人的にはバロック調の『Gjuha』から『Sinner』への流れが好きです。それからネットでの拡散よりも地道なライヴ活動を積んできたことにも好感が持ています。一気にブレイクしていきそうな勢い、感じますよね~。
 さて、私はBBCのSound ofつながりでセレクトしました。構成を担当しているラジオ番組『My Jam』の2月14日放送(これからですので、良かったら聞いてください)でもSound ofをテーマにしたのですが、2位のオリヴィア・ディーンはすでに紹介していたので、4位のタイラと5位にエルミーンをピックアックしました。この「アルバム往復書簡」では5人中唯一の男性だったエルミーンを取り上げたいと思います。
 それにしても今年もグラミー賞授賞式のパフォーマンスが素晴らしかったですね。大好きなアニー・レノックスがシネイド・オコナーの『ナッシング・コンペアーズ・トゥ・ユー』を歌った後、「世界平和」を訴えました。拳をあげた時にそうじゃないかとは思ったけれど、彼女の行動は一貫しているよなぁと。涙のメイクは、追悼コーナーだったので、当初シネイドに捧げられたものかと思ったけれど、彼女とガザ、ウクライナなどの犠牲者に向けてのものだったんですね。涙がこぼれました。

エルミーン『Marking My Time』

 人柄がにじみ出ているような優しい声。ベイビーフェイスを若くしたような甘さもあって、その魅力といかつく見える写真のギャップに興味を持ったのがエルミーンとの出会いだった。情報は少ないけれど、調べてみると、スーダン出身の両親とUKオックスフォードで育ったという。ロンドンなどの都会に比べて、アフリカ系の子供は少数派の環境のなか、おとなしい性格のエルミーンは、音楽に心の拠りどころを見出したようだ。

 そのなかで、どんどん時代を遡ってR&Bを聴き続けたそうだが、その音楽的バックグラウンドは、このEPを聴けばわかる。斬新さを競うようなビートとは一線を画す、ゆったりと音を紡いでいくクラシカルな歌。もちろん彼自身も曲作りをしていて、タイトル曲『Marking My Time』の歌詞もフィロソフィカルでありつつ、聴く人によって時を刻むことへのさまざまな受けとめ方が出来ると思う。ストレートに日本語に訳すと、常緑樹となってしまう
"evergreen”という言葉だって、いろんな意味を見出すことが出来る。彼にとっても深い意味のある歌なのだろう。美しいファルセット・ヴォイスでせつせつと歌う歌に感情が揺さぶられる。好きだなぁ、この感覚…。
 これからどんな歌を書いていくのか楽しみだし、普遍性を突きつめられるようなアーティストだと思うので、息の長い活動を期待したい。
                             服部のり子


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