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#97 ザ・レモン・ツイッグス『ア・ドリーム・イズ・オール・ウィ・ノウ』

服部さんへ

 お、ウィローですね。僕は彼女がポップ・パンク路線を打ち出したころに出会って、前作もとても気に入ったので、ここでも取り上げさせてもらった次第です。
 原点回帰と呼ぶべきなのか、今回は打って変わってオルタナティヴなR&Bという感じで、彼女のルーツや音楽表現の深さに、失礼ながらちょっと驚いてしまいました。ジャズやファンクをはじめ、参照ジャンル/スタイルがボーダレスで、僕はジプシー的な要素も感じました。
 そして何より、歌が上手い。そして表現力が豊か。複雑なリズムも鮮やかに乗りこなして鋭角な旋律を刻むし、しなやかなグルーヴと溶け合うような歌唱も、実に美味。かと思えば、待ってましたのパンキッシュなシャウトを聴かせてくれたり。いやはや、才能っていうやつは、恐ろしいですね。
 さて、僕が今回取り上げるのは、これからの季節にもピッタリな、レモン・ツイッグスの新作です。

ザ・レモン・ツイッグス『ア・ドリーム・イズ・オール・ウィ・ノウ』

 好きなんです、この米ニューヨークの兄弟たちの音楽が。これでふたりともまだ20代半ばというのだから、やっぱり才能というやつは恐ろしい。そして素晴らしい。これぞ現代のブリティッシュ・インヴェイジョン。
 本人たちも影響源として公言している通り、ビートルズにビーチ・ボーイズ、バーズ、モンキーズなど、彼らの音楽的ルーツは60年代、70年代の黄金期のポップ・ミュージックにある。しかしその年齢を考えてみればわかる通り、そこにはノスタルジーもセンチメンタリズムもなければ、マニアック自慢のような姿勢も感じられない。
 「伝統的なソングライティングを祝福したい」と語る彼らが、自らプロデュースして演奏し、歌う曲たちは、まばゆい輝きに満ちあふれている。個人的に一番のツボは、「スウィート・ヴァイブレーション」からの3曲。メロディもコーラス・ワークも極上で、なんだか泣きたくなってきたりもする。

 レトロにしてフューチャー。我々世代には懐かしくも新鮮に響くが、10代のポップ・リスナーには異端かもしれないし、現シーンでは浮いた存在なのかもしれない。もっと高い評価を得て、しかるべきだと思う。
 ……と言うのは、ライター風情の建前でした。売れようが売れまいが、老若男女、レモン・ツイッグスと出会って心ときめいてくれる人がいてくれたら、ただただうれしい。あ、ショーン・レノンが参加していますよ。
                              鈴木宏和


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