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#70 サントラ『ウィッシュ』

鈴木さんへ

 ノラ・ジョーンズとデイヴ・グロールの共演は、ノラのポッドキャストで行われたもので、基本は音声のみなんだけれど、映像をYoutubeで観られるセッションもあって、それを今あれこれチェックしています。その動画を観ていると、ノラってもともとNYの小さなクラブでいろんな人とのセッションを楽しんでいたピアニストなんだよなぁ、やっぱりこういうことがやりたいのかと思えてきます。
 そして、鈴木さん、ノエル・ギャラガーのライヴに行ったんですね。鈴木さんと私の音楽的嗜好の違いと感じるひとつがUKロック。UKジャズとか、UKソウルとかは好きなのに、ロックにはそれほど興味がないからか。誤解されないために付け加えると、ロック全てを苦手としているわけではないので…。オアシス全盛期に何度かライヴは観たことあるけれど、ひとり盛りあがりに欠けている自分を認識しました。でも、このソロ・アルバムは、ソングライターとしてのノエルの才能というか、純粋にいい歌だなぁと思って聴いています。
 さて、今回私が紹介するのはディズニー作品です。きっと鈴木さんは、ディズニーのアニメーションは観ないだろうなとは思うのですが、音楽の素晴らしさは折り紙付きです。

サントラ『ウィッシュ』

 ディズニー100周年記念作品のミュージカル映画『ウィッシュ』が今日12月15日から公開となった。ディズニー映画は、創業者ウォルト・ディズニーに強い意向もあって、音楽のクオリティにとことんこだわったことで、『星に願いを』など数々の名曲がつくられてきたし、近年では『レット・イット・ゴー』といった世界を夢中にさせた大ヒット曲も生まれている。
 そのディズニーで今回音楽を任されたのは30歳のシンガー・ソングライター、ジュリア・マイケルズだった。過去のアラン・メンケンやリン=マニュエル・ミランダらの実績に比べると、大抜擢に思えるけれど、彼女がプロットの段階で先行して書いた歌『ウィッシュ~この願い』が作品全体の方向性を定める道標になったという。実際に劇中で主役アーシャの決意表明のような存在になって、この歌をきっかけに物語は大きく展開していく。

 そんな重要な歌をこれまたオリジナルは、女優のアリアナ・デボーズ、日本語版は生田絵梨花がアーシャの心の変化を力強く、そして繊細に表現していくわけで、映画を観ながら、なぜ人は、昔から星に思いを語りかけてきたのかと、いろんなイマジネーションを刺激する歌にもなっている。
 劇中歌は6曲と多くないけれど、どの歌も今ここにいる人の心情はどうなのか、これからどんな展開になるのか、といった風に物語の水先案内人となっている。同時にミュージカル映画の醍醐味のひとつである、メインキャストとアンサンブルが参加する華やかで心昂るような歌もある。さらに参加ミュージシャンも実力派を揃えていて、際立つのは世界的なパーカッション奏者、アレックス・アクーニャの演奏と思われる重くタイトなリズムは、短いシーンではあるけれど、息を呑んだほどのインパクトがあった。
 映画のエンドロールで、席を立つ人もいるけれど、『ウィッシュ』の場合は、それはもったいない。映像に100年の歴史が感じられるし、ジュリア自身が歌うエンドソング『かけがえのない願い』は、世界中の人たちに贈るラヴレターのような歌。歌詞がすごく良くて、きっと大人も子供も願いってなんだろう、夢ってなんだろうって思い返すことを促す歌だし、それを考えることがまた映画のいい余韻になると思う。
                             服部のり子



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