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#5ディカペラ『マジック・リイマジンド』

鈴木さんへ
 アーケイド・ファイアの記憶で言うと、2011年に彼らがグラミー賞で、
最優秀アルバム賞を受賞した時に、ケイティ・ペリーやレディー・ガガを
応援していたので、作品の内容に関係なく、バンドかぁ~と落胆したこと
でした。この新作を聴いて、失礼だったなと反省しています。
 1曲目の『Age of Anxiety』から心ザワザワしました。何度も繰り返される
"Living in the age of~♪”という歌詞。「of」のあとにあまりにもたくさん
の言葉が当てはまると思うと、せつなすぎる。日常を送るうえで、平静を
装っていた方が楽なんて思っちゃうけれど、そうじゃないんだよと自分に
言いながら聴きました。
 ヴォーカルのウィン・バトラーのハイトーンヴォイスもいいし、4曲目の
『End of The Empire I-III』のアコギから始まり、終盤のストリングスが壮大
な世界を描いていくサウンドも好きです。
 紹介してもらわなかったら、きっとこのジャケットに後退りをしていた
と思います。

ディカペラ『マジック・リイマジンド』

 ディカペラは、ディズニーの音楽をアカペラで歌うために結成された
グループ。当初は7人組だったが、アルトヴォイスのソジャーナが脱退
したので、現在6人で活動している。そんな彼らの強みは、ディズニー
の名曲を自由に歌っていいことと、アレンジを担う音楽監督が「現代ア
カペラの父」と言われるディーク・シャロンであること。リードヴォー
カル+コーラス+ヴォイス・パーカッションなんて編成ではなく、六声
が複雑かつ緻密に絡み合う、まさにマジカルなヴォーカルワークを聴か
せてくれる。
 8月の来日公演を記念した『マジック・リイマジンド』には新録曲、
前2作から選曲された代表曲、配信のみだった曲と全26曲を収録。初めて
聴く人は、これが全て人の声だけなのか、ときっと疑いたくなると思う。
そのなかで彼らが得意とするのが”マッシュアップ”という手法。メドレー
とは異なり、2つの曲を合体させながら歌う。たとえば、『アナと雪の女王』からの有名な『レット・イット・ゴー』と『雪だるまつくろう』の
マッシュアップだと、前者は劇中で姉エルサが歌い、後者は妹アナが歌っ
ている。その2曲をメゾソプラノとコーラスの男性陣が一緒に『レット・
イット・ゴー』を歌い、そのメロディーを追いかけるようにソプラノが
『雪だるまつくろう』を歌い、最後に一緒に『レット・イット・ゴー』を
2人で歌うのだ。そのアレンジは、劇中の姉妹の関係性を再現しているし、ひとり歌っていくソプラノの歌唱力にも感嘆する。
 どの曲も熱烈なディズニー・ファンでなくても、知っているような有名
な曲ばかり。そのなかで今回思わず「オ~!!」と声を上げてしまったのが
1曲目の『カンティーナ・バンド』だ。映画『スター・ウォーズ』の劇中
で、宇宙人が集うバーで流れるインスト曲を声で楽器演奏しているんだけ
れど、その巧みさに加えて、曲の前後で宇宙人の会話が再現されているの
だ。そこにシャロンのセンスと手腕を感じずにはいられない。
 ディズニーの名曲は、基本親しみやすくて、一緒に口ずさめる楽しさが
あるけれど、ディカペラの歌に素人は易々と合わせられない。そこが痛快
であり、聴きごたえがあり、心ワクワクするところ。人の声って素晴らし
い楽器だということを実感していただけるだろう。
                            服部のり子



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