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音大の脳みそ・理系の脳みそ(異なる見え方を想像する)

音楽教室という古くからある形態の中で、「新しいものを生み出す」というと聞こえが良いですよね。でも実は、古くからあるということは、あらゆることが考えつくされているということでもあります。ですから、パッと思いついた方法で、「劇的な改善」が図れるわけではありません。

そこで私たちは、音楽教室の常識に「異なる常識」をぶつけることで、本質に迫ろうという取組を続けています。

教室として最も大切にしているのは、レッスンの中で生徒が「なるほど!」と腑に落ちる感覚を得られるかどうか。その積み重ねが、確実な上達へと繋がっていくからです。


自分で言うのもなんですが、多分私達は仲良し夫婦です。出会って20年、喧嘩はゼロ。でも、議論は四六時中してます。レッスンの合間でも、夜中でも。白熱のあまり、気付けば空が白んでた…、なんてことも珍しくありません。ここまで読むと、「いつも一緒にいて、何をそんなに話し合うの?」と思われますよね。

思い返せば、あれは開校してすぐの頃。「今日、生徒さんにこんなことを話してね…」と何気なく夫に話しかけた時に、「それ、多分、生徒さんには全然伝わってないと思う。」と言われ、ものすごくショックだったことがあります。「そんなことない!一生懸命伝えたし、生徒さんだって頷いてたよ!」、そう反論する私に、「君たち音楽家には当たり前のことも、僕たちにはそうじゃないことが沢山あるんだよ。」と夫が諭すように言いました。

長く音楽を学んできた私にとって、コツコツ練習を積んで習得してきた技術も、年月を経て、それはいつしか“出来て当たり前”のことになっています。更に、周りもみんな音楽家という環境では、皆がその“当たり前”を前提に生きているので、感覚的な説明だけでも十分お互いを理解し合えます。

一方、音楽の専門家ではない夫にはその“当たり前”がありません。「音楽的に考えれば、当然こうなるでしょ!」という曖昧で強引な私の主張は全く通用しないのです。でも、これが教室を続けていく上で、最も大事なことでした。

「分からないことは分かりあえるまで話す。お互いが納得するまではテコでも動かん!」というスタンスを、夫が貫いてくれたからこそ、「そうか、こういう表現を使わないと、生徒さんには伝わらないのか…」という、講師として最も大切な気づきを手にすることができたのです。夫が忍耐強く、温厚な人で有難い限りですね(笑)。と、そんなことを繰り返していたらあっという間に15年が経っていました。そして、「この教室で歌を学びたい」そう思ってくれる生徒さんがいてくれる限り、これからも深夜の話し合いは続いていくのでしょう。(宮本由季)

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