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公園と鳩と無職 #33日目


 無職になってからずっとやりたいと思っていたことがあった。


 それは、平日の昼しかやってないお店に行くとか、昼間からお酒を飲むとか、そういった類のことではなく、平日の昼間に公園に行き、ベンチで物思いに耽りながら、鳩に餌をあげる、ということである。


 理由は明白で、ザ・無職感を感じれるのではないかと考えたから。ドラマや漫画の世界では、無職になると、決まって公園に行き、鳩に餌をやる。


 これをやったからといって、世界は何も変わらない。けれど、今の間でしか経験できないことではないか?と思い立ち、善は急げの精神で、パン屑をもって、近所の公園に向かった。


 思い描いていたとおりに、物事は進まない。これは30年の人生の中で学んできたことである。


 まず公園に着くと、早々に、鳩にエサをあげないようにとの看板が目についた。冒険漫画でも、こんなに早く挫折が訪れることはないのでないかというスピードでら無職になったらやりたいことランキング1位の実現を諦めることとなった。


 とはいえ、鳩に餌をあげなくても、公園のベンチに座り、物思いに耽るということはできる。そそくさと、空いているベンチを見つけ、腰掛ける。


 しかし、なんだか雰囲気は出ない。漫画やドラマの、あのシーンとの違いは何か。


 一つは、あまりに早い時間に行きすぎて、そもそも公園に人がいなかったということがあるだろう。子どもも学校に行っている時間であったし、すでにリタイアした後の老人が数人いるだけであった。やはり、他者からの目線がないと、あのシーンは成り立たないのかもしれない。


 また、公園にはTシャツとチノパンという、なんともない格好で行ったのだけれど、スーツで行くべきだったかと思った。あのシーンに、スーツは欠かせない。


 ということで、僕の企みは見事失敗に終わった。でも再度チャレンジしてみようという気はしない。そんなことしなくても、無職であるということは、自分がよく理解しているし、無職という事実そのものに向き合うより、前を向くことが大事なんだから。そう自分に言い聞かせながら、活躍の機会を与えられなかったパン屑をリュックに入れたまま、帰り道を歩く。



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