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変な先輩と無職 ♯36日目

 前にも書いたとおり、自分は東大を卒業している。ひとたび同窓会を開催すれば、大企業の社員、官僚、医者、弁護士・・・立派な肩書を背負った人々が集まる。

 その一方で、自ら起業をした者やベンチャー企業で活躍する者なども、少数派として一定数存在する。東大生はビジネスの世界で(特に起業の世界で)成功者が少ないということがよく言われるけれど、黙って就職すればそれまで積み上げてきたものを基に、大企業や士業の世界に行けるのであるから、それを捨てて起業するということにリスクが伴うからしないということでしかないと個人的には考えている。

 そういう意味では僕も、その立派な肩書(組織)を背負ったメンバーの一人であったのだろうけど、残念ながら今となってはそうではない。別にそれ自体に何か引け目を感じていることもないのだけれど、では、少数者派の側に行って戦っていけるのかと言われるとたちまち自信がない。

 そんな「少数派」に属していた先輩の一人から、先日、飲みに誘われた。その先輩は、東大卒業後、youtuberになった先輩である。

 学生時代から異端であった先輩から見れば、自分は正統派中の正統派であったのだろうが、そうした圧倒的な違いが気に入られたからなのか、大学時代から、頻繁に飲みに連れて行ってもらっていた。

 仕事を辞めたことを報告していなかったので、開口一番その旨を告げると、「そうか」と短く答える程度で、予想していた反応とは少し異なるものであった。「転職活動はしているのか?」と聞かれたので、これからだと答えると、いいところが見つからなければうちで働いてもらっていいからと言ってくれた。

 自分の決断の結果を先輩に押し付けることはしたくないし、身内が上司になることもイメージできなかったので、きっと先輩の仕事にお世話になることはないだろうなと思いつつも、そう言ってくれる人がいることを嬉しく思った。

 ただ、店を出る際に、先輩から「やっぱりさっきの話はなしで。お前はうちみたいな小さい企業で収まっていい人間ではない。いい仕事が見つかるといいな」と言われ、別れた。

 好きでもない人に振られたような気持ちと、本当の意味で自分のことを考えてくれているんだという少し温かい気持ちを抱きながら、口に残ったほのかな日本酒の香りとともに家に帰った。

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