トリプルファイヤーのバイトリーダー
先月末、めでたくトリプルファイヤーの『EXTRA』が世界に放たれた。たくさん聴かれているようで嬉しい。ずっと4千人ぐらいだったSpotifyのリスナーも2万人を超えた。願わくばゼロがもうひとつくらい増えてほしい。
このところ取材やラジオ出演などで忙しい日々を送っている。ありがたい。こうした機会がなければなかなか会わないような人と再会してお話したり、新たな出会いがあったりして、刺激的で楽しい。他方、いろんな所へ行っていろんな人に会うのでソーシャルバッテリーがそろそろ底をつきそうだ。こればかりは、人との接触を避け、自分の世界に閉じこもり、羽を伸ばして回復する以外にどうしようもない。
音楽を聴いたり、楽器を弾いたり、本を読んだり、映画やドラマを観たり、料理を作ったり、外食したり、散歩したり、ゲームで遊んだり、家事をこなしたりするなどして、一人の時間を過ごすことができさえすればソーシャルバッテリーは充電される。しかし、これができない場合、精神は荒んでいく一方だ。
人と一緒に過ごすだけでひどく疲れてしまうタイプの人間がこの世界には一定数存在する。言うまでもなく私もそうした手合の一人だ。「俺ほど一緒にいて楽しい奴はいない」と自負する人物からしてみれば、こうした存在は認めがたいに違いない。しかし残念ながら私たちはこの世界に存在するのである。
インタビューに対する苦手意識は7年前に比べると格段に薄まった。トリプルファイヤー全員で受けたOTOTOYのインタビューでは、かつてのように黙り込んでしまうこともなかった。むしろトリプルファイヤーの音楽監督として堂々と受け答えができたと言って差し支えないだろう。
OTOTOYにはトリプルファイヤーのファーストアルバム『エキサイティングフラッシュ』をリリースするよりも前にインタビューをしてもらったことがある。その記事がweb上に残っていたから、久しぶりに読んでみると、私の発言は二言に限られており、震えずにはいられなかった。当時はまだ「吉田が連れてきたバイトの新入り時代」だったからすべてに対して遠慮があったのだ。結局この時代は7年ほど続く。
以前、さる音楽雑誌の企画で、さるミュージシャンと対談した際、バンドの来歴を聞かれ、元々3人で活動していたところに途中で私が加入したのだと伝えたところ、「ええ、それって結構いやがられるパターンじゃありません?」と言ってびっくりしていたのを今でもよく覚えている。言われてみればたしかにその通りだった。
すでに人間関係が出来上がった男三人のグループに馬の骨として丸腰で飛び込んでいくなどというタフな選択は、今の私であれば絶対にしない。しかし当時は現在よりも輪をかけてウブでナイーブで世間知らずだったから、それがタフだとすら認識できていなかったのである。ちょうどモラトリアムも終わりに差し掛かり、いかめしい現実を前にして無力感に打ちひしがれていた時期のことだ。常にひもじく、自尊心はずたぼろで、頭はまるで冴えていなかった。
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