かっこいい35歳とそうでもない35歳の分岐点
どのようなシチュエーションだったか詳細は省くが、人間がもっとも無防備になるタイミングでそれは起こった。視界の脇の方で何かが動いているのが感じられる。飛蚊症の一種かと思いつつスルーしていたところ、あまりにしつこいので視線を向けた瞬間に、近隣住民の耳に届くほどの叫び声を上げてしまった。いまだかつてあれほどの大声を出したことはない。あまり思い出したくないからこれ以上の描写は控えよう。
しばらくして意を決して部屋に戻り、引き戸を閉じて息を整えた。アドレナリンで脳みそがひたひたになっているのがわかる。スマホの振動ひとつにも声を上げるほど神経が過敏になっていた。
土曜の夜である。やりたいこと、やらなきゃいけないことがたくさんあった。しかし計画が狂ってしまった。今は眼前の問題を対処しなくてはならない。そうしなくては世界で唯一自分が安心していられる空間が、世界で最も安心できない空間になってしまう。それを痛手と言わずしてなんと言おうか。
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