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65日目 (3) - 命運尽きたり

(前回の記事)

 裁判そのものは、ものの30分ほどではなかっただろうか。
 最後に裁判長が検事に、「何かありますか?」と尋ねる。検事が立ち、「別件での追起訴もありますので、次回公判にて」などと言う。

 命運尽きたり、の瞬間。おそらくは、僕のささやかな人生で、最大にガッカリした瞬間である。

 そこへ追い討ちをかけるように、「それでは次回公判は……」と、裁判長が次回の予定を切り出す。「10月22日でいかがでしょうか?」検事と弁護士「結構です」。

 ……………………。

 1ヶ月以上も先! つい先ほどの「人生最大ガッカリ」記録は、ものの1分後には塗り替えられたのであった。


 帰路は、まさに「トボトボ」であった。
 現実にはステップワゴンの後部座席に手錠腰縄で鎮座ましましているので、「トボトボ」ではないのだが、護送車の窓越しの風景すら、薄暗い。スモークガラスだけに、なお暗い。車の走る速度すら、遅く感じられる。逮捕時よりも実感のともなう分だけ、なお落ち込む。
 おそらくは、逮捕以来始めて、ちゃあんと落ち込んだと言っても過言ではない。

 長い。
 あまりと言えば、先が長過ぎる。

 ここまで既に65日。次回公判が10月22日というと、あと40日以上あるのである。
 40日というと、1ヶ月以上あるのである。
 100日というと、1年の3分の1なのである。
 10月というと、………もういいか。

 と、事程左様に落ち込みつつあったのだが、よく考えると、既に2ヶ月以上が経過している。あと1ヶ月なんて、たいした事ないか、と思うと、多少気が楽になってきた。

 しかし裁判後、面会にきてくれたS、K両氏からも慰められ、看守からも「いつもの元気がないねぇ」と慰められ、おそらくは、傍目にも落ち込んでいたのであろう。我ながら、これしきの事で落ち込むとは、修行が足りん。もっとも、こんな修行は別段したくもないが。

 さすがにこの夜は、寝付かれなかった。


※この手記は2003年に執筆されました。文中の人物名はすべて仮名です。

この記事は故人の遺志により、妹が公開したものです。故人ですのでサポートは不要です。ただ、記事からお察しのとおりろくでもないことばかりやらかして借金を遺して逝ってしまったため、もしも万が一、サポートいただけましたら、借金を肩代わりした妹がきっと喜びます。故人もたぶん喜びます。