「昆虫食陰謀論」とは? ライター雨宮純さんによる解説(その2)
みんな大好きウィキペディアの「昆虫食」項にも、昆虫食陰謀論が記述されるようになりました。ウィキペディアの情報は信頼性・公正性ともに担保されていないものの、ネタの幅広さはさすがです。「脚注」の欄には、引用元である昆虫食陰謀論関連の記事がぎっしり。これは、いい資料。謹んで活用させていただきます。
さて前回のnoteでは、トークイベント「徹底トーク!昆虫食陰謀論!?」(横浜ネイキッドロフトにて開催)にてライター雨宮純さんが説明してくださった、「昆虫食陰謀論の定義」をかんたんにまとめました。今回はそれに続き、昆虫食陰謀論の発生や、コオロギ食叩きが広まった経緯を雨宮さん解説のおさらいとして記録します。
昆虫食陰謀論の源流って?
陰謀論に昆虫食が出てくるようになったのは、スイスのリゾート地ダボスで行われる「世界経済フォーラム(通称・ダボス会議)」での論議が大きなポイント。この会議に、昆虫食が登場したのです。環境への影響から「肉食を止め、環境負荷の少ない昆虫食に移行すべき」と論議されました。ダボス会議には、首脳や企業の重鎮が大集合しますから、常に世界中から注目の的。巷では「影の世界政府」やら「金持ちクラブ」やらの、不名誉な異名もついています。そんな場で「虫を食え」となればそりゃ〜……
「グローバルエリートが虫を押し付けている!」
なんて意見が出るのも、無理からぬことかもしれません。民主主義といえども結局世のルールは選ばれし人たちの世界で決められ、下々の我々はそれに従わざるをえませんから。
私の場合は、たまたま虫を食べる人だったので反感を抱かないだけで、もし「米と麦は環境に悪いから、全世界市民はインジェラに切り替えろ(エチオピアの主食で世界一まずいと言われる)」と言われたら「勝手に決めてんじゃねー」と暴れたかもしれません。陰謀論者の主張する「食料危機も環境危機も嘘。人民を支配するための人為的な策略だ」とまではいかずとも、単純に、食の恨みは怖い。話がそれました。雨宮さんにご教示いただいた解説まとめに続きます。
ダボス会議では、「グレート・リセット(Great Reset)」というテーマが掲げられています。今の社会全体を構成するさまざまなシステムを、いったんすべてリセットしてよりよい世界を作ろうという提案です。これも、陰謀論視点で見れば、「グローバルエリートが人民を統制するための策略」。この世界観がベースにあることで、新型コロナウイのバンデミックさえも、その計画のための偽バンデミックになります。コロナ禍のSNSで、よく流れてきた「コロナはただの風邪」「コロナは茶番」。こうした言葉も、元は同じ発想です。
さてこれらのほとんどは、グレート・リセット陰謀論以前からある「新世界秩序陰謀論」とほとんど同じであると、雨宮さんは指摘。ダボス会議によるグレート・リセット陰謀論、そしてそこに含まれる昆虫食陰謀論も、新世界秩序陰謀論の焼き直しであると。この陰謀論が日本にも輸入され、独自のアレンジが加わりつつ、コオロギ騒動へと発展していきます。
私たちが無邪気に虫のキャッチ&イートを楽しんでいた約15年前。現在と比べると食べられる場所も手に入る市販の虫も圧倒的に少なく限られていたので、「世界統一のため闇政府が人々に昆虫を食べさせようと策略している」なんて話を聞いたら、爆笑しつつ「なったらいいな!」と小躍りしていたかもしれません。
日本で発生したコオロギ騒動
お次は日本における「コオロギ騒動」の経緯です。こうした陰謀論のベースがあるところに、徳島県の高校で「コオロギパウダーを給食に取り入れた」なるニュースが登場したのが2022年11月。実際は給食ですらなく、食物科の授業の一環で「希望者だけがチケットを購入して食べた」というものでしたが、雑な報道から「給食にコオロギ=子供たちが半強制的に食べさせられた」と誤解されてしまいます。
となれば「コオロギ食のおしつけが、ついに始まった!」です。吹き荒れる、批判の嵐。さらに生産調整による牛乳廃棄のタイミングも重なり、「牛乳は捨てさせ・コオロギを推す」という構図が強引に作り上げられました。本来全く別問題であるハズの2つを無理やり同列で語り、無理のある部分は日本の「もったいない精神」を煽ることで、押し切ったようにも見えました。
次のさらなるアクションは、「国民の血税をこんなことに使ってまあす!」と叫ぶこと。「コオロギ事業に6兆円」というデマ※です(ファクトチェック記事まで出ちゃう始末)。
農作物を中心に花や虫(コオロギやカイコ)の生産に補助金が適用される「認定農業者」という制度はあるものの、そもそもこんな莫大な予算はありません(そのうえで、コオロギに適用されているのはごくわずか)。ほかには技術革新(農研機構のムーンショットとか)のための研究費もありますが、これもSNSで叫ばれる「事業者への補助金!」とは大分ニュアンスが異なります(そしてこれも昆虫食に限った話ではない)。
しかしお金の話は多くの人の共通の関心事(税金となればなおさら)。金額を盛って事実でない極端な切り取り表現をして、手っ取り早く反感を煽ることができる、さぞかしおいしいネタだったでしょう。
そのほか「漢方では妊婦に禁忌」とか「コオロギはプリン体が多い」とか、「コオロギ食の危険性を食品安全委員会が指摘」とか。数字をいじったデータを作ったり、ネタ元をたどりにくい資料をもってきたり。真っ当に調べれば速攻バレるようなものばかりではあったものの、瞬発的にRTを稼ぐ燃料としてはそれなりにいい働きとなったようです。
こういった出来事を「騒動」と呼ばれるにまで拡大させたのは、保守系著名人たちです。「コオロギ食べない連合」というハッシュタグも作られ、今年2月末頃にはバズりまくり。その後も、ひろゆきや料理研究家などが、牛乳問題に言及する形で参戦。そうだ、過去にTV番組で虫を食べて「おいしい」と言っていたにもかかわらず、騒動の渦中では「絶対食べません」と宣言していた女性芸能人、かつては健康のため昆虫食を取り入れていたはずなのに批判側に回った政治家も忘れてはいけませんね。食の主義が変わったりブレがあるのは人間誰しもあるでしょうが、手のひらを返すごとくその様は、コオロギ騒動の思い出として、私の記録に残しておきます。
批判の中には一部的確なものもありましたが(例「コオロギ食はSDGsには適さない」「ガチの食糧危機になったらコオロギ食でどうにもならない」)、多くのデマが入り乱れたままに、格好の批判ネタとして未だに消費され続けています。
リベラル批判、政権批判、助成金批判も海外の焼き直し
ちなみにこうした日本のコオロギ騒動で見られた批判も、海外で既に起こった流れだと言います。
昨年、カナダのロンドン(オンタリオ州)に大規模なコオロギ工業を作るというニュースが登場すると、グレート・リセット陰謀論に発展。そして同国の保守党議員がリベラル批判、助成金批判、政権批判に利用して「トルドー首相が、国民にコオロギを食わそうとしているんだ!」と煽るムーブを繰り出しました。
日本で2023年2月頃から河野太郎氏が「コオロギ太郎」といじられまくっていたのも同じムーブでしょう。元ネタや発想だけでなく、批判の流れまでが海外の焼き直しだったということです。
歴史は繰り返す……でなく、単なる後追いモノマネでしょうか。「何度時を繰り返しても、コオロギが燃えるんじゃが!?」というSFギャグ漫画が生まれる日が来るかもしれません(需要ないな)。
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