あの子が持ってた傘の柄を。

私はもう思い出せない。

天気予報は晴れだから傘は要らないかもしれない。どこに住んでいるのか、何をしているのか、何も知らない。ただ今日歳を重ねて数ヶ月間だけ年齢が離れたことだけが確かで、自分だけまた取り残された気持ちになった。

寒いことを口実に酒を飲んで、暗い部屋にひとりでいる。薬に塗れていることは知っていたのにまた焦らせて挫かせて離してしまった。もっと話せば良かったと今更思っても遅いのに。

彼女を喜ばせたくて、別の人を傷つけたことを思い出した。

何も見えていなかったんだな。気付かないうちに自分も一緒に抉られていて、その時の痛みがことあるごとに染みる。口が切れる度、頭が揺れる度に思い出す。

放っておけば治るのに、治したくないからわざと傷口を開くんだ。そしてまた痛々しい血を見て安心する馬鹿だから、どれだけ願っても許されないよな。

懺悔に似た後悔を繰り返して、何年経っただろう。ある日急にそれは消えた。理由は明確で、もう誰もいなくなったからだった。

誰とも思考を交わさないと、自分はいなくなったみたいな感覚になってしまう。

夜、好きな曲を聞いて、弾いていたら泣きそうになった。もうこんなに重くないはずなのに。もう映像の漫才でこんなに笑えるのに。それなのに、まだ何が残っているんだろう。

あの子が良い人かどうかは分からない。でも周りの人に好かれれば良いし、好きな人の周りにいられれば良いなと本気で思うんだ。

暗いこの部屋だけが社会から沈んでいて、誰の視線も浴びない。明日になればまた窓から光が差し込むだろう。

いつだって味方は太陽だけみたいな気持ちになった。

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