もう一生会わないのに寂しくないなんて嘘だけど本当で、優しい。

今日は早起きして、ご飯を食べて着替えを済ませて外出した。

雨が降っていた。寒かった。信号は震えて待った。

バスに乗って最後の日へ向かった。

別に泣かなかったし、何も思わなかった。ただこれで終わりなだけ。もうここには来ないし、この人たちのほとんどともう会わない。また会う時には、なんて嘘になる話をして時は過ぎた。

ただ、この窓からの景色がもう見えなくなることは寂しいと思った。横長い窓から見えるのは並ぶ建物と遠くの山。地平線は真ん中にあって、上半分は空と雲。白い建物は偽物みたいに新鮮で、コンクリートの建物は過去みたいに硬い。それらの間を埋めるように家が建っていて、そこだけが現実に見える。

写真に建物の絵を描き込んだような景色。

過去と未来が現実で混ざり合うような、虚構と実像が本物で縁取られるような、嘘みたいな本当があるから好きなんだ。これまで何年もぼんやり眺めていた景色をこうやって文字にしてみて初めて気付いた。

昨日切った指先を見つめて痛みを確認する。昨日は垂れるほど血が出ていたのに、もう乾いた皮が浮いているだけで怖くなる。

内側と外側が繋がっては断ち切られる。たった一晩で。内面も外面も本当は繋がってなどないと思いながら、離れることはないとも思う。

もう一生会わないのに寂しくないなんて嘘だけど本当で、優しい。だってそれは、ずっとちゃんと信じてるってことだと思うから。


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