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『こちらあみ子』 今村夏子

『こちらあみ子』 今村夏子

中編と短編二つ。

『こちらあみ子』
何が起こっているのか少しずつ明かされていく…どういうことなのかなと時々考えながら読んだ。何とも言えない読後感。
絶妙なタイトルがまた複雑な気持ちにさせたれた。
『ピクニック』
今村夏子節炸裂。明るい気持ちになった。

『チズさん』
日常の一コマを切り取った短編。
人の気持ちはやはり行動に現れるなと感じた。


ここからネタバレします


今村夏子さんの小説は、新刊を除きすべて読んだ。『こちらあみ子』が1番好きかも知れない。

あみ子と一緒に帰宅したり何かとあみ子の世話をしていた優しいお兄さんは、成長するにつれ、不良になってしまった。

子どもに無関心な父は、再婚して新しい奥さんを迎える。その奥さんもまた子どもたちには無関心。

殺伐とした環境下で、あみ子は育つが、自由に天真爛漫に行動する。そんな姿に周囲は困惑する。

そんなあみ子を持て余したのか、最後は父からも見放された形で、祖母の家に引越しをする。

詳しくは語られていないが、育児放棄の話しだったのかと納得した。

「こちらあみ子」は、トランシーバーの応答の言葉。

トランシーバーで、生まれてくる子どもと遊びたかった。無邪気さそのものである。

あみ子はずっと誰かに応答して欲しかった。心を通わせたかったのかと思うと、裏目に出てしまった一方通行な行動には、切ないものを感じた。

祖母の宅に引っ越した時には、私は少しホッとした。無関心な人たちに囲まれているよりも、応答してくれる人と一緒にいるほうが良いと思った。

冒頭で語られてる通り、大切にしたいと思える小学生のさきちゃんというお友達も出来た。祖母と一緒に暮らす前のことはあまり覚えていない記述もある。

それだけであみ子が幸せな生活を送っているということが、暗示されているように感じた。

「どんな生い立ちでも、どのように人から扱われても、幸せな生活は送れる」そのように感じた。

『ピクニック』

このような風景を見るのは何万回目だろう。

夢見がちな女性に話を合わせているだろう女性たちの物語。

嘘がバレて(というか、みんな分かってたと思うが…)居づらくなってそのまま辞めてしまう七瀬さんにはなんとも愛おしい気持ちになれた。

『チズさん』

大好きな孫の整形が嫌過ぎて、自分の家から逃げ出すおばあちゃんと、ヘルパーさん。

火事場のクソ力なのか、弱い足で立ってしまう。

相当嫌だったんだろうなと想像した。





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