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十三代目市川團十郎白猿襲名披露「勧進帳」

今月の歌舞伎座は十三代目市川團十郎白猿襲名披露、八代目市川新之助初舞台「十一月吉例顔見世大歌舞伎」が行われています。二年前に予定され延期になった海老蔵さんの團十郎襲名公演です。昼の部に行ってきました。

現在、チケットは完売。開演前、幕間、終演後の劇場内の人混みを体験して、嬉しいやら疲れるやら(笑)特に終演後はなかなか劇場から出ることができませんでした。疫病が流行って再開してから初めての経験です。あの50%のスカスカだった客席が脳内に甦り胸が熱くなりました。でも、猿之助さん贔屓としては、猿之助さん座頭の公演でこの光景を見たかったので、ちょっぴり悔しくもありました。


「勧進帳」のお話。
新團十郎さん、幸四郎さん、猿之助さん。同世代が揃い新しい風が吹いたひと幕でした。襲名公演を観るたびに思います。名跡を継ぐことは代々の命を重ねていくこと。’襲’という文字には’重ねる’という意味があるそう。猿之助さんの襲名時の祝幕を思い出します。

10年間で襲名をした同世代三人。やはり格別でした。三人三様で熱いものが内にある。それが響き合い、まるでセッションを見ているような感覚でした。きっと日々違うのだろうなと。

團十郎さんは以前の弁慶と雰囲気が違っていました。とても気持ちを込めて丁寧に演じている印象。以前はもっと良い意味で荒々しくてダイナミックだったと記憶しています。今回は動きより、弁慶という人間がより大きく見えました。

私は先代を最後に観たのが弁慶でした。おおらかで愛嬌があり、義経たちに出発を促す時のお茶目な感じが好きでした。同じである必要はないけど、やはり團十郎の弁慶というのは絶対的で唯一無二なのだと新團十郎さんにも感じます。

対する富樫の幸四郎さん。爽やかで凛々しく、登場から内なるものがメラメラしているように感じました。弁慶と対峙した時。もちろん緊迫感もあるけれど、どこか親しみやすく面白かった。弁慶×富樫より、團十郎×幸四郎の絵が久しぶり過ぎてワクワクが勝っていました。

これは猿之助さんも然り。團十郎さんが側に立った時、泣きそうになった(笑)この光景はいつぶりだろうか。夏の歌舞伎座で観た二人の「柳沢騒動」は最高に面白かったな。。と甦ってきたのです。今回の三人が同じ絵に納まったドキドキ感がたまりませんでした。特に猿之助さんが新鮮なのです。座頭でもなく、幸四郎さんとペアなわけでもない。代役でもない(笑)今までと違うパワーバランスの中にいるのがたまらなく面白かったです。

猿之助さんの義経は私は初見です。ご本人は2007年パリオペラ座公演以来かと。先代團十郎さんと当時海老蔵さんと。まさか歌舞伎座で観ることが叶うとは思っていませんでした。

花道の出。七三で振り返り、辺りを見回します。三階席までぐるっと見てくれて最高にテンションが上がりました。あのお衣装を猿之助さんが着ているだけで胸がいっぱい(笑)声が神妙に響き、佇まいも品があります。でも、その後から中盤まではほぼ動かない。笠をかぶっているので顔も見えない。全く気配を消しているわけではなく、存在感はあるけれど、オーラだけを消している感じ。

唯一、笠を脱いで動く場面、上手に移動し弁慶を労います。弁慶とキマる形の美しいこと!これぞ猿之助!と心で叫んだくらい有り得ない形でキマる。

また、驚いたのは足が速いこと!猿之助さんが俊敏なのは知っているつもりですが、あんなに速くすり足で動かなくても(笑)後ろに移動する時が速い。牛若丸時代の弁慶との戦いで軽やかに翻弄するエピソードが浮かびます。最高に速かったのはラストの花道。驚くほどの速さで揚幕まで去っていってしまった。ここは止まらないのであっという間にいなくなった(笑)付いて行く四人がほぼ若手だから皆が速い。風のごとくでした。

その四天王が新鮮なメンバーです。巳之助さん染五郎さん左近くん、市蔵さん。市蔵さんはもちろんですが、若い三人も所作が美しくて眼福。若さからくる力強さも瑞々しくていい。千穐楽の頃にはかなり進化していくと思うので、観ることできないのが残念です。将来、三人はどのお役も務める可能性があると思います。そう考えるだけでワクワクしました。

ラストの弁慶の飛び六方は迫力満点。團十郎さんには華があり圧倒的でした。これは毎回、スッキリします。


同世代の共演をもっと観たいと切に思う。本当に楽しかった。襲名という祝祭時だけでなく、不断で叶うといいな。猿之助さんの富樫だって観たい。夢が広がる歌舞伎界であってほしいと願った勧進帳でした。

その前の二つの演目も楽しかったです。
次回に綴ります。


aya

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