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撮影は、自分の魅力と今ある幸せに気付くこと─フォトグラファー永野ともみ

「お待たせしました!」と少し困り顔で、でもハリのある声で彼女は画面の前に現れた。

永野ともみさん。
実は、写真展参加を決めた昨年の12月にちょうど第二子を出産したばかりである。お待たせ…の理由も、お昼寝の寝かしつけが少し伸びたからだった。

写真展の準備はどうですか?と聞いてみると

「すべてが未知すぎて…!」
と少しくだけた雰囲気で笑う。


ちょうど撮影も終わり、パネルの選定・発注作業にかかるタイミングだ。
今までにもまして、忙しさが迫ってきている。

「当たり前なんだけどやることいっぱいなんだなって。実際にやってみないと分からないことがあるとはいえ、想像以上にやることがいっぱいで。
えみーちゃんはこれを毎回ひとりでやってるのか?すごい…って!」



昨年2022年12月。
写真展のプロジェクトメンバーにエントリーした。
一眼レフカメラの基礎講座を学んでいたとはいえ、まだ有料で人を撮ったことがない。そこからの一念発起だった。


そもそも2022年にカメラで起業しようとは、1mmも想像していなかった。

昔から趣味程度に風景など、撮りたいものを撮っていた。
その頃使っていたのはオリンパスのpen。
女性に人気のミラーレスカメラで、手軽にフォトジェニックが楽しめる初心者向けのものだ。最初はそれで十分だった。


(イメージ)


ところが、子どもが生まれたのをきっかけに少し意識が変わった。
我が子をもっとかわいく撮りたい。
もっとうまくなりたいという欲が生まれた。


転機になったのは2019年の冬だった。

翌年の手帳としてCITTA手帳という手帳を手に取った。

「やりたいことを叶えたい時から使う、未来を予約する手帳」がキャッチコピーの、手帳独自のワークや推奨されている使い方がある手帳だ。

ただの予定は書ける。
でも、そのためにこれを買ったんじゃない。
効果的な使い方が分からない。
悩んでいたところ、手帳の使い方講座があるという。

早速申し込んでみると、講師から宿題がでた。


《 手帳内に設けられた「ワクワクリスト」を、講座開催日までに全部書いていてくること 》


ワクワクリストは読んで字のごとくワクワクする未来のリストだ。
つまり自分の望む未来を書けという。

見開き2ページ。
全部で54項目もある。
いったい何を書けばいいのか。

でも、期日までに書き終えていかねばならない。
持ち前のまじめさで、とにかくひねり出して全項目を埋めた。
そのひねり出した一文に「もっとカメラが上手くなる」の一文があった。


(イメージ)



振り返れば、これがすべての始まりだった。
手帳の使い方講座の講師をしている女性が、たまたまその一文に目を止め、

「私の写真を撮ってくれている人、次で入門講座をやめるらしいよ。最後のタイミングだし行ってみたら?」

と、知り合いのカメラマンを紹介してくれたのだ。


その頃はちょうど2020年春。
新型コロナウイルスが蔓延し外出が制限されていたころだった。

本来なら教室で行われるというカメラの入門講座も、zoomでオンライン開講だという。本当は実際に間近に見て教わりたいけれど、「次がないのなら」と受講を決めた。

しかし、持っているカメラは相変わらず初心者向けのpen。
とにかくシャッターを押せばいいだろうと撮っていただけだったので、使ったことのない機能の話から、構図・逆光について。ついていくのに必死になるほど、盛りだくさんの知らない内容だった。

そうして2か月かけてカメラの基礎を学んだ。

それにしてもカメラマンやその受講生たちとSNSでつながってみると、そのつながりに個人で撮影を体験している人たちが多いことに気付かされた。

講師だったカメラマンのお客様らしい女性たちが、入れ代わり立ち代わり撮ってもらった写真をシェアしていく。それが自分のタイムラインにどんどん流れてきた。

自分にとって、写真は記念日に撮るものだった。
子どもの成長は止まってはくれないから、いつでもうまく撮れるようになりたいとカメラを学んだが、まさか一般の女性がひとりで撮られるという世界があるなんてまったく知りもしなかった。

SNSのタイムラインに流れる女性たちは、おそらく何でもない日常のタイミングで、お気に入りの服でおしゃれをして撮られている。
しかも、東京の街中の道端らしい場所でさえ撮影している。

そんな、「日常に写真を撮られる」なんて世界があるんだ!

しかも、その写真に写る女性たちはみんな楽しそうな表情なのが、何より印象的だった。

そんな写真たちを毎日眺めていると、こちらの意識もだんだん変わってくる。子どもが産まれて少し落ち着いていたけれど、生来好奇心が強いタイプである。むくむくと試してみたい気持ちが湧き上がってきた。


「わたしも撮られてみよう!」

そう決めて、カメラマンが関西に来る2021年5月に撮影予約を入れた。
人生で初めて受ける個人撮影で、講座を受けていたとはいえオンラインでなく実際に会うのは初めてだ。

一人で行くのは少し怖かった。
だから、自分単体での写真も撮ってもらいたいが、夫にも一緒にきてほしい。夫をかきくどいて、家族でのファミリー撮影をお願いした。


(イメージ)

撮影場所は神戸のハーブ園。
そこで、家族の姿を撮ってもらった。

渡されたデータを見て、目から鱗が落ちた。
もちろんそれは、プロの使う機材で撮られた繊細で美しい写真というのもあったが、なにより、自分も夫も、娘も、とにかく幸せそうな顔をしていた。

「めっちゃいいやん。幸せやん」

普段から不幸せと思って過ごしていたわけではない。
しかし改めて自分たちの幸せそうな顔が写真として残されているのを見ると、何とも言えない気持ちになった。

家族が一緒にいるだけで十分に幸せなんだ。

日常が幸せなんだ。
日常でいいんだ。

その幸せを感じられる機会を、特別な記念日だけにしておくのはもったいない。

「写真を撮りに行く」のは、特別な記念日じゃなくていいんだ。

写真は、記念日に家族みんなで撮るもの。
その「当たり前」が完全に書き換わった瞬間だった。



しかし、自分一人の撮影ともなるとそんなことは言っていられなかった。
その1か月前に第二子妊娠がわかって、ちょうどお腹が大きくなり始めたころだった。それを抜きにしても姿勢が悪い。足が開いている。しわが気になる。その他もろもろ。

とにかく、もらった写真を見て自分の悪いところが全部気になった。

「次はもっとここを変えたい。もっとよく撮られたい」


20代・30代と、好きなことをして生きてきた人生だった。

誰かがおススメしたものにはたいがい興味をもつ。
よっぽどこれは違うってものがなければチャレンジする。
興味があることはぜんぶやりたい。

好奇心の塊が駆けまわっている。そんな人間だ。

10代後半から音楽のライブにハマった。
GLAY・L'Arc-en-Cielといったメジャーから、インディーズや洋楽まで、興味の範囲は幅広い。ツアーが始まったら行ける会場には全部参加した。
音楽フェスもなんのその。熱烈な音楽ファンだった。

服も好きだ。
王道のCanCamからとがったものまで、一通りチェックしては好きなものを買っては、毎日着る服の方向性の違いに親に呆れられたほどだった。

いざ就職活動をするにあたって考えたのは、自分が大好きなアパレルの販売員になりたい。しかし追いかけているバンドのライブに行くためには土日休みじゃなくては困る。

そんな理由から最初の就職先に事務職を選んだほど、趣味に生きてきた。

途中、SE・事務・webデザイナーと様々な経歴を経たあと、ふと、終電ぎりぎりの電車に乗って帰り、ほんの数時間後にまた会社に向かうという日常が虚しくなった。そして、現在勤務している会社の経理事務の仕事に落ち着いた。

そして30代半ばで結婚と出産を経験すると、また漠然と今の生活に違和感を覚えた。

仕事が嫌いなわけではない。
熱意はある。興味もある。
しかしルーティンは苦手だ。
同じことをし続ける日々には刺激が足りない。

今のまま会社員として働いている生活をこのままあと20年続けるのだろうか。その頃はまだSNSもたいして見ていなかったが、うっすらと起業という言葉が脳裏によぎり始めた。

2021年、カメラの入門講座から一年が経った。
件のファミリー撮影の中で、カメラマンに「私もプロとしてやっていけますかね」と軽く聞いてみた。

「どれくらいの規模でやりたいかだけど、必死にやればできるんじゃない?」

そうか。
必死にやれば、フォトグラファーとしてやっていけるかもしれないのか。


その後、自分一人での撮影を2度受けた。
一度はヘアメイク付きの室内撮影。
次の一度は、写真展を主催した小木曽絵美子の撮影だった。

すべて一カ月スパンの撮影で、しかも妊娠中だから姿勢矯正も叶わない。
それでも、緊張してガチガチになってはいたけれど、撮られるたびにいい表情になっていた。

最初の撮影で「自分ってこんな顔なんだ」と分かったからこそ、変な力が抜けたのかもしれない。




2022年、写真展用のパネルを製作するために、初めて一般に撮影をつのり、有料撮影も募集した。

まだまだスタートしたばかり。経験は少ない。
乳飲み子を抱えながらだが、女性お一人だけでなくファミリーも、七五三やお宮参りも、この半年のうちに撮らせてもらって経験を積んでいる。



「やさしい写真撮るね」
「幸せがあるって気づいて泣きそうになった」

自分が初めて撮られたときと同じように、幸せを感じてもらえることがとにかくうれしい。





女性に向けた個人撮影では、本人が気づいてない魅力を撮れたら、そしてそれを喜んでもらいたいと思っている。

いつもの気づいてる魅力もかわいいと思う。
しかし、気づいていない魅力を見つけたら、自分の好きなところが1つ増えるのだ。

好きをいっぱいにしてもらったら、その人の幸せがよりグレードアップしていく。

自分が「ない」を見つけるのが得意だったからこそ、意識して「ある」を伝えたい。

幸せも、魅力も、自分の中にすでにある。
あとは、それを広げていくだけなのだと、気付いて欲しい。



だからこそ、何が好きか、どんなふうに過ごしているのが幸せか、撮影の最中もつい聞いてしまうことがある。お客さんがCITTA手帳ユーザーならば、「ワクワクリストに何書いていますか?」なんて質問も飛び出す。

ある女性には「ともみさんが納品してくれるのと同じ締め切りで、私もひとつワクワク叶えます!」と言われ、納品のメッセージの返信に叶えた写真が添付されてきた。

自分がワクワクを叶えるきっかけになれたことが嬉しかった。





「撮られることを文化に」

小木曽絵美子が掲げるこの想いが好きだ。


友達どうしで、「昨日映画いったよ」ねぐらいの日常の会話の中に「昨日撮影行ったの」「これ撮ってもらったの昨日!」という話題が出るようになったらいい。

「これどこで撮ってもらったの?」
「この服どこで買ったの?」

プロに撮られた写真を見せあいながら、みんなでワイワイ盛り上がる未来があるといい。

そうは言っても、SNSでつながっている起業家や撮られるのが当たり前になっている人たち以外の人には、まだまだ、なかなか伝わらない。

練習のためにモデルをお願いしたいと、友人に声をかけたときも、「私一人でなんて、モデルじゃないし無理です」と言われることも多かった。

まだまだ撮られるって当たり前じゃないんだ。
撮る側に回ったことで、意識を変えていくのが大変なのだと改めて感じた。

でも、仕事で撮影が必要ない人でも、いつか撮られることが当たり前になって、今日はどこで撮られたのっていう会話が当たり前にになったら、それはすごく幸せなことだと思う。



まだまだ、動き出したばかり。
だからこそ、夢は広がる。

もちろん、撮られるのが当たり前になる大きな未来も一つの夢だ。
そうではなく、叶えたい目標の一つが、いつか、大好きなアパレルと大好きな写真を掛け合わせたい。

ショッピング同行で、服を選ぶところから一緒に同行し、そしてその服を着た姿を写真に残したい。

着たい服を選んで、着ただけでワクワクしている表情や、やっぱりこの服着ている私好きっていってる顔を撮ってあげたい。

未来の私が着てる服を着て、その写真を撮ることで向かう目標がビジュアル化されることもある。

「なりたい私」を頭で思うのも大事だけど、視覚で見るのも大事だ。
そのお手伝いがしたいし、一緒に創り上げていきたい。




まもなく写真展が始まる。

自分のことを知らない人が圧倒的大多数だ。
だから、自分の展示室にきていただいて、頭の片隅にでもこんなフォトグラファーがいるんだと知ってもらえたらうれしい。

そしてなにより、自分以外のブースにも、いろんな写真が、素敵な写真がいっぱいある。

それぞれのフォトグラファーの世界観を順番に巡って、そこでパネルとして表現されている女性たちの姿を見て、元気をもらったり、幸せな気持ちになったり、素敵な映画を見たあとのような感覚になって帰ってほしい。


そして時が来たら、「私も撮られてみたい!」と自分が撮影に飛び込んだように、どのタイミングでもいい。だれに撮ってもらってくれてもいい。

まずは、撮影という体験をしてほしい。



「昨日写真展行ってさー」
「今度一緒に撮りに行かない?」

そんな会話が生まれる未来の、ひとつのきっかけになってほしいと願っている。

インタビュー動画も配信中!


8人の女性フォトグラファーによる
一般女性のための写真展

「prism of μ's」

2023年3月1日~3月5日
10:00-17:00(3/1は14:00開室 3/5は15:30閉室)

名古屋 市民ギャラリー矢田
地下鉄名城線「ナゴヤドーム矢田」駅すぐ

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