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◆上海タンゴマラソン②初日の憂鬱

タクシーにぼられながらも無事にホテルに着いたのが17:30頃。着替えてすぐに同じホテル内のミロンガ会場へ向かった。

エレベーターを降りると、タンゴの音楽が聞こえてきて、すぐにそれとわかった。受付で名前を確認してもらい、1400元(約22000円)を支払ったあと、タンゴマラソンのリストバンドを手首につけてもらう。

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お昼のミロンガは16時から始まっている。中に入ると、ゆるやかに人が集まり、ウォーミングアップをするかのように踊っていた。 

ボールルームはさすがに広く、四方がテーブルで囲まれている。
前列はReserved席で、先生や関係者席のよう 。その後ろが一般席だった。

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(ドレスコード・Jungle Styleーこう見るとちょっと怖い、喰べられちゃいそう)

右も左もわからず知っている人もいない。緊張はしていたものの、それでもウィーンでの疎外感とは違う。国籍はわからなくてもほとんどがアジア人なので、なんとなくホームにいる感じがするのだ(心の中で、「VIVA黄色人種!」と叫ぶ)。

とりあえずの赤ワインをもらい、入り口付近で様子を見ていると、ここで日本のミロンガでたまに踊る知人に遭遇。一気に気持ちが緩んだ。
今回日本からの参加者は約13名とのこと。デモンストレーションではスタジオCaminitoのRene y Junko先生と群舞のデモもあると聞いていた。

赤ワインを持って一般席に座り、フロアを眺めつつ写真をとったりすること30分。私の目の前のVIP席に座っていた韓国人男性となんとなく会話が始まり、 ファーストタンダはその人と踊った。いかにも"いいとこのボン"といった雰囲気。VIP席にいるあたり、相当個人レッスンを積んでそう……。

この最初に踊った彼は、2日間のミロンガを通してもトップ3に入る印象的な人物だった。

まず、発言がいちいち気障なのだ。

「その香水、どこの?とても君に似合っているね」だとか、
はたまた踊り終わって、その後も目が合うたびに、「Why are you so beautiful? 」などと歯の浮くセリフが普通に言えてしまうし、似合う人。
日本にはあまりいないタイプ!

そして肝心の踊りは……

力強いけど、強引にならないギリギリのリード。
抜け感があり、リラックスして踊っているのが伝わってくる。

何より、自分の個性をよくわかっていた。
「メリーゴーランドみたいに回るのが俺のタンゴ」と彼。
回転していると、だんだんとふわふわとしてくる。しっかりとホールドされている体とは裏腹に、心は宙を漂っているような感覚が、心地よかった。

遊び心があって自信家で、抜群にうまくて、会場中の美女を転がしてる感じで。 

彼と踊っていたら、シリアスなだけがタンゴじゃない、遊んだっていいじゃない、という気持ちになった。
肩の力を抜いて、楽しく踊ればいいのだ。

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(かなりヒートアップしてきた会場)

その後は流れに任せて、10人くらいと踊った。

踊り始める前、または終わった後に、だいたい「どこから来たの?」というやりとりをした。うち半分が韓国人で、私が踊った韓国の方は、Closedスタイルで相手とのコネクションを重視する踊り方だったように感じた。
私が好きなスタイル(注:この時はわからなかったけど、ミロンゲーロスタイル、というのかな)だ。

会場中見渡しても野卑な人はいなくて、スマートだったり余裕がありそうな方ばかりで、こちらでは「タンゴ=セレブの踊りなの?」と思った。

女性陣は見た感じ、20代〜50代が多くて、皆若々しい。スタイルが良くて腰からヒップにかけてのラインがキュッとなっていて、それを強調するようなボディコン的衣装を身につけた人が目についた。ロングヘアの美女多し。 あと、タトゥーが入ってる人が多い(シールかも)!

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(ドレスコード・Pop Artー日本から来た方と)

深夜0時半くらいにシングル部門やカップルコンペの発表があって、女性のシングル部門では日本のHarunaさんがなんと優勝。
Harunaさんは、私より年下だがしっかりしていて、ちょっと独特の外国人的オーラを持っている、華がある踊り手さん。個人的にとっても応援している。

私はといえば……。
最初韓国人の彼と良いスタートを切って、その後もあまり何も気にせず、 自分からカベセオしたり、歩いてる時に目があった人と踊ったりしてたけど、夜が更けてくるにつれ、どんどん自信喪失。

今更?!という感じだけど、
他の人たちの踊りを見ているうちに、自分の技術の未熟さが気になって、無になって音楽に乗れなくなっていった。

ここまで来ておいて、タンゴ歴の長い他の人と自分を比べることもないのに、どうしても卑屈な自分が出てきてしまうのには困った。

それくらい、全体のレベルが高かった(ように感じた)。

上海タンゴマラソンなんて来るの、やっぱり早かったのかな……。


**

すっかり沈んだ気分で、4時前に部屋に戻り、そこからお昼まで寝ても、疲れは完全にはとれなかった。何よりすっかり落ち込んでいた。

辛うじてごはんを食べに出た後、午後もミロンガ開始の16時までベッドから動けなかった。

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(ご飯だけはしっかり食べました……)

今回弾丸のスケジュールを組んだけど、逆に2日間だけの参加にしといてよかったのかも……心が、体が持たなかったかもしれない。


そんなブルーな気分の中で、ふと覗いたたけし先生のブログ。
なんと、まさかのタイミングで、私のことが書いてあった。

「僕はタンゴを教えるとき、身体の動かし方やステップ、リズムの取り方は勿論ですが、もっとも大事にしているのは「タンゴを踊る」という感覚です。どんなに綺麗な身のこなしでリズムを押さえ、様々なステップを繰り出せたとしても、そこがなければ踊っているとは僕には思えないからです。なので初めてタンゴに触れた方から感じることもあれば、10年以上続けていても感じない方もいます。(中略)」
そして、「今度の上海も存分に楽しんで来て欲しいと心から思います」と締められていた。
(元記事はこちら

……そうだった。

私が今大切にしている「タンゴを踊る」感覚は、呼吸を合わせること、音楽を聴くこと、相手とのコネクションを感じて"一緒に踊る"こと。

今更ステップを意識したり「うまく踊る」なんて無理なのだから、今のわたしができる「タンゴを踊る」という感覚を大切にして、今日この日を楽しむべきなのだ。

③へ続く




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