「カメラを止めるな!」を面白く観れる人を今更考察

今更なのでネタバレには配慮しませんし作品解説もしません。というかできません。記憶のみを頼みにした乱文なので作品内容に関して間違っていたらごめんなさい。


この夏、オリンピック中継も終わりテレビで見るものが全くなかったので、昨今のテレビに最初から入っている配信サービスを起動しなんの気なしに両親といっしょに観てみたら、前半の前半からとんでもない空気になり両親とも別のことを初めて見向きもしなくなった。
母は不機嫌になり一言も喋らず父は「何が面白いのかわからない」とのたまった。一応最初の種明かしであるタイトルコールの場面まで流してみたが、完全に興味をなくしていたので自分が耐えられなくなり中断してしまった。その愚痴兼分析。
私自身は過去に視聴済み、とても面白かったと記憶していた。


まず検体である自分のエンタメ偏差値みたいなものを考える。漫画でもアニメでも映画でも、話題になって且つ自分が興味のあるものしか摂取しない、興味のあるものでも気分が乗らないと今日のデジタルサービスを開くことすら億劫。本は全く読まないし往年の名作の話をされてもほとんどわからない、過大評価して日本人全体のちょうど平均くらい、にわか、ミーハー層である。


自分がこの映画を初めて観たのは配信サービスの見放題が始まってすぐだったと思う。劇場公開当初から漠然とした話題の沸騰を目の端に捉えていたので、その時は気分が乗って観てみたのだろう。
事前知識はほとんどなく、ホラー映画の要素があること(実際はゾンビスプラッタ映画)、映画「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」のような長回しのカメラワークが特徴といった聞きかじった情報のみがあった覚えがある。

ここ数年こそ好んで食べるジャンルになったホラー、パニック、スプラッタ、ゾンビものの(自分なりの)楽しみ方が当時はわからず、ほとんど触れていなかったように思う。
それは演出、美術、小道具、撮影の妙をまさしく鑑賞するという楽しみ方だったのだが、今思えばこの映画の影響が全くないとは言えないと思えたのは、この文を書いた一つの収穫である。


この映画の前半はある一発通し撮りスプラッタドラマのマスターフィルムを我々視聴者に公開するという構図になっている。文章で書くとすでに分かりにくいし説明しにくいが、初視聴時の自分は「あ、劇中劇なんだな」と深く考えず特に抵抗なく受け入れられた。
後々ネットに転がっている感想などを読み漁っていると、前半の苦痛を乗り越えられれば面白くなるといった文言を目にしたが、当時の私は事故ってる舞台劇という演出を楽しんで観ていた記憶がある。
不自然な間、間延びしたシーン、地面に横たわるカメラ、情緒の不明な演者(という演技をする演者)。不自然らしい不自然だらけで後々明らかになる伏線と言うにはあまりにもこれ見よがしだ。
これは撮影中になにか予期せぬ事態が起こっていてその収拾に駆られながら撮影を続行している、という状況設定に、私のようなエンタメ弱者でも初回視聴からなんとなく気づくことができるやさしい作りになっている、と言える。
その上であの演出、空気を面白いと思って観られるかは、けっきょくのところ人によるよね、とこの映画の後半部分をどう感じるかを考えているうちに思った。


後半はタイトルコールとともに前半で流された怪映像の実態を説明する場面から幕が開く。つまりこの映画の種明かしはこの時点でほぼ終わっており、残りの時間は準備期間と実際の撮影風景の描写に終止する。その物語はパッとしない中年テレビ番組監督の苦悩と人間関係を中心に展開する。
その描写、物語の演出は妙に青臭く見ようによれば陳腐なものに映るのだが、前半の余りにもグダグダで不可解な内容を経た自分には温かく真に迫って感じられる。
あまり「あえてそう作られている」と主張するのは好きではないし、実際そういう意図があるのかはわからないが、少なくとも自分にはなにか胸を打つヒューマンドラマを前半とのギャップからか普段よりも素直に受け取ることができた。


少し違うが映画「ディア・ハンター」の前半をクソ長くてめちゃくちゃ退屈だと思っている。だがあの描写があるからこそ後半のハードすぎる展開がハードすぎるだけに終わらないし、半ば飽き飽きしていた日常はもう戻ってこないあの頃として、終盤の会合と観客とをリンクさせていくのではないか。最後まで観終わってふとあのクソ退屈だった前半は必要で、名作を名作たらしめている要素なのだと気づく。場面場面をバラバラに観たらあまり面白くないと思う。


「カメラを止めるな!」がつまらなかった人みたいなポストに散見される「前半のホラー部分が学芸会」とか「どんでん返しを期待したのに」とか「後半が青春活劇で思ってたんと違った」といった批判は、前半と後半の構成を予想していなかった角度から楽しめた自分からすれば、期待したものが提供されなかったことに対する消費者クレームという印象だ。
確かに100%肯定する必要はないしできる作品なんてないと思ってるけど、そんなクソなだけのものもなかなかないと思うから、出されたものを自分なりに楽しんでみては?とホラー映画を楽しめるようになった今の自分は上から目線ながら思ってしまう。
ありていに言えばもったいない。エンタメ作品なんだから。

この作品に限らず自分はあまり「こういうのを観たい」という固まった期待をしないでコンテンツに触れているのかもしれないとも思った。
クソと感じたものをクソと言いたい気持ちはよくわかるので、違う作品で出会えたら友達になれたかもしれないね。

がんばって両親に続きを観せようと思います。

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