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人物園(じんぶつえん)Ep-3

海人が眠りについた深夜、
階下の「紅梅」から喧嘩する声が聞こえてきた。

海人の父「正人」が帰ってきたのだ。

正人は日雇いの建設現場で働いており、
各地を転々としているが、
月に1度ほど帰ってきては大酒を飲み、
いつも母親の玲子と大喧嘩をする。

木造ボロアパートでは
耳をふさいでいても喧嘩する声は入っていくる。

正人は玲子の浮気を疑っているようだった。

「ビシッ」「バシッ」「ガシャン」
玲子を殴りつけ、物を投げつける音も聞こえる。

以前、喧嘩を止めに入った海人は、
拳で顔面を殴られ気を失ったことがあった。

正人の粗暴は近所でも有名で、
気に入らないことがあれば度々トラブルを起こし、
警察沙汰になることも少なくなかった。

正人は全国に知れ渡る暴力団直系団体の
最高幹部であったが、
海人が生まれると同時に全財産と跡目を譲り、
正式に組を脱退していた。

筋が通った男であったが、人を馬鹿にする態度や、
裏切りには敏感で筋を通す男であった。

正人が2階にあがる足跡が聞こえる。

海人は恐怖に怯えながら寝たふりをしていた。

正人は、寝たふりをする海人と
妹の明美の頭を優しく撫でたと思うと、
すぐに大きなイビキをたて、少し離れた場所に眠り込んだ

横に寝ている妹の瞼からは大粒の涙が流れていた。

それから数日後、
「ジリリリーン」「ジリリリーン」

お好み焼き屋「紅梅」の
黒電話が激しく鳴り響いた

電話に出た「玲子」は何もしゃべらず
無表情で頷くだけだった。

海人の父「正人」が
建設作業現場の10階から落下したと
警察からの電話だった

玲子と海人はタクシーで指定された病院に向かったが
正人は既に遺体安置所に収容されていた

一通り警察の状況説明を受け本人確認を促されたが
遺体は思わず目を背けるほどの激しい損傷状態だった

病院から葬儀会社を紹介されたが、
金がなく生命保険にも入っていない正人の亡骸は
直接火葬場に持ち込まれた。

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