「ヒップホップ・ドリーム」(漢 a.k.a. GAMI著)

普段はあまり読まないのですが、昨日読んだ「月ノさんのノート」に引き続きエッセイつながりということで、漢 a.k.a. GAMIさんのエッセイも読むことにしました。

彼はいわゆるラッパーですね。日本語ラップのラッパーで新宿育ちのワルなラッパーです。銭湯は入れませんね。風呂場では隠しようがないくらい体に入れ墨、というかタトゥーが入っています。

自分も最近知ったので、聞きかじり見かじりした程度ですが、彼の「紫煙」という曲にハマりました。皆さんもよければ聴いてみてください。ガツンと来る感じ。歌詞は全然知らない世界の話なんですが、かっこいいワードたちが強烈に印象に残ります。

「生まれたときの体重は4kgを超えそのまま成長したため、生まれつきガタイがデカいのであってデブなわけじゃない」といった趣旨の書き出しから始まるこのエッセイは、彼の生い立ちに始まり、ヒップホップに出会い、音楽やそれ以外の活動を振り返って現在に至るまでが赤裸々に語られていました。

友人たちの様々な家庭環境や得体の知れない人間が多い新宿の風土がいわゆるストリート文化として彼の人間性に深く刷り込まれ、自分が感じたり体験したりしたことをヒップホップを通じて表現しようと思ったそうです。過激な言葉を駆使して自分が経験してきた「リアル」をラップにしていたラッパーは当時ほとんどいなかったとか。

普通の人間としては、強面の巨漢なら実はいい人だとか、可愛い一面があるとかそういうギャップを期待しますが、しっかりやることもやってました。ストリートビジネスといって、アムステルダムから観葉植物を買い入れて売りさばくんですって。警察犬に嗅ぎつけられたらまずいんですって。いったい何のことでしょう。

可愛い一面といえばチョコレートもよく買ってらっしゃったそうで、チョコレートの売人を瓶で殴ってかっぱらったこともあるそうな。

そういう点もリアルさなんでしょうか。ラップバトル中に「刺すぞ」といったら本当に刺さなければいけないルールのヒップホップグループを作って楽曲制作に打ち込んでいるくらいストイックなラッパーでした。

だいぶワルくておっかない人だと個人的には判断していたのですが、このエッセイを通じて面白いところや共感できる部分もありました。

彼のエッセイでは、変なところで敬語が出てきます。

基本的に敬語はほとんど使われておらず、また使う必要が無い文体なのですが、

”これはなかなか狂ったマンガですね”や"君はたしかにオシャレだけど、顔で言ったら絶対オタクですよね?"、"また君ですか?よくぶつかるプレイをしますね"

などと彼が心の中で(~だな)と思ったりしたときに、なぜか敬語が使用されています。何でなんでしょうか?敬語を使わないまま(~だな)と思う場合もあるので法則が無く、唐突に現れる敬語がシュールで面白かったです。

自分はラッパーというと自分のスタイルや楽曲に揺るがない自信を持ってそうで、評価されても中指立てそうな印象を持っていましたが、彼は初めて彼らだけで曲を作るときの出来に満足できず自信を少し失っていたり、評価されるか不安な曲が売れて喜んだりと、普通の人間のような一面もエッセイ中に書かれており、そこが意外でもあり、共感できる部分でもありました。

結局とことんリアルさを追究しているんだろうな、と思いました。ラッパーとして成功を収めた後に、様々なラッパーと知り合ったことや曲を出してた会社と揉めたこと、その後にどん底に突き落とされたことなど、逃げ場のないラッパーの世界で生き抜き現在に至るまでに加えて、最後に彼の夢がこのエッセイに書かれていました。

アンダーグラウンドのラッパーたちを集めて日本ラップ連盟みたいなものを作りたいそうです。これについて自分は何ら言うことは無いですが、うん、無いです。できたら怖いっすけど。

最後の最後にもっといいことを言ってました。

”人の出会いは過去・現在・未来の自分との出会いだ”

立派な楽曲になりそうなくらいガツンと来る文章です。言い文章だなあ。

しますね嫉妬。踏みましょう韻を。こんなんでいいの?

違うぜきっと。

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