「怪物ベンサム 快楽主義者の予言した社会」(土屋恵一郎著)

ブックオフでタイトルに目が惹かれたので手に取りました。

裏の紹介文に奇人啓蒙思想家とまで書かれていたら、その本を棚に戻すわけにはいかなくなりました。だってすごそうじゃない?

自分は世界史を選択しなかったので18,19世紀くらいのイギリスのインテリのことなど何も知りませんでした。有名な人らしいですね。

知らな過ぎて、秋葉原のラジオ会館でオーディオ系の商品を扱う店に冷やかしに行ったことを思い出しました。全てのものが何に使うのかさっぱりで、マイクっぽいとか、ツマミがたくさんついているなとか、そういう感想しか抱けなかったように、この本も、とても賢いイギリス人が頑張っているな、と思いました。

もしくは知らない人の会話を盗み聞きして、その内容を想像するような無鉄砲な試みに似ていました。今からちょっと本の内容にも触れるのですが、

全く0の知識から空気を読んで整理した情報なので、正確性に欠けることをご容赦ください。(以下この文章をXとする)

ベンサムは功利主義者、というものの走りだとか。文字だけ見ても何となく想像できます。利益を追求してそう。この本を読む限りではこの解釈で不都合はないと思います。自分はそうでした。(X)

快楽が多ければいいんじゃない?社会システムを構築するうえで、最も多くの人が最も幸せになる社会がいいんじゃない?という考え方、なのでしょうかね。(X)

その考えに直接関係しているのか分かりませんが、例えば、法律で犯罪を防ごうとするときに、罰を重くするのではなくて嗜好品の規制を緩和して犯罪を起こす気を削ごうと考えたり、当時ホモが宗教的、慣習的にNG(死刑)だったのに対し、快楽を増幅させるんだから社会的にいいじゃん、という考えを残していたりしたそうです。(X)

あと、ベンサムといえばパノプチコンというほどに、有名な監視システムを考えたそうです。中央から独房を監視できるようにして、イケてる社会の象徴となるような刑務所を建てるために奮闘したみたいです。(X)

このイケてる社会というのが、最大多数の最大幸福を目標としていて、結構人を人としてみていないというか、人間性や倫理観より、多くの人間が快楽をいかに得るかを追求した監視や管理システムの構築を目指してる節があって、当時の人々にあまりウケなかったとのことです。国民を裏から操る、みたいな?そこまでは言ってませんでしたけど、怖いっちゃあ怖い。(X)

産業が発達してきた時期で、人と自然の立ち位置も旧時代と比べて変わってきたところに、「だったら人と自然、人と人すら人工的に(システマチックに?)制御できるんじゃないか?」と大胆に思考を飛躍させた人でした。(X)

現代ではファミコンゲームの題材にもなってそうな思想ですが、ホモを処刑しているような価値観をもつ社会でその発想に至ったところが、すごいと思いました。

そんなベンサムが20台で功利主義に目覚め、偉い人に見いだされ、本を出したり、ロシアに行ったり、フランス革命にも間接的に関わったりして、晩年に至るまでをこの本は書いていました。その過程でベンサムが考え出したものを、膨大な資料から読み取れるベンサムの性格や人生の背景と絡めて考察しているところがこの本の見どころだと思います。

ベンサムが色んな所に宛てた手紙や日記、書いた論文にはじまり、ベンサムの関係者の書き物、ベンサムと同時期にいた人物たちの書き物といった膨大な資料から、ベンサムの置かれている状況・背景を調査し、ベンサムの考え方にどう影響を与えたのかを書いていました。

例えばベンサムの父親は、ものすごく物質的というか、現金な人で、ロマンチックさや冒険心のような物語性が大嫌いなタイプだったそうで、「政治的にメリットのある結婚をしなさいよ」だとか、「野心なんかもたないでイギリスで確実に稼ぎなさいよ」だとか、息子のベンサム(父親も苗字はベンサムですが)によく説いていたそうです。

ベンサムの思想にもこういった傾向がみられるそうで、王や聖職者が「王座」、「祭壇」といった表現で憲法に書かれることで、王にこういうメリットがある、聖職者はこういうデメリットを避ける、みたいな実際の生々しい利害関係に言及しないことを批判していたようです。これ父親の影響じゃね?みたいな(X)

なんとなく、小学生の頃に自分が嫌いだった標語を思い出します。「進んで学び働く子」「粘り強く頑張る子」「仲良く力を合わせる子」という3つの標語だったのでした。社会性を分かりやすくかみ砕いたような、そんな目標ですが、小学校高学年の自分には、教師が生徒を都合よく管理するための指針にしか見えなかったのです。ここまで言語化はしませんでしたが、何となく言われた通りにするのは操られている気がして嫌でした。嫌な子供でしたね。

あとこの本の説明が上手いです。ここまで好き勝手にこの本に書かれていたことを解釈してつらつら並べていますが、この本でない別の資料でベンサムについて調べていたら、ここまで好き勝手に書けなかったように思います。

思想家の考え方を専門的な内容で読み解かれている本は、学術的に大変有意義でしょうが、きっと万人受けしないことと思います。自分が信長の野望について論じる際に、戦闘のゲームシステムをターン制にすべきかリアルタイム制にすべきか、三国志7,8,10,11,14に見られた一武将操作は太閤立志伝からインスパイアされたものであるならなぜ信長の野望には反映されないのか、などを考察しても、多くの人にはピンとこないと思いますし。

この本がすごいのは、あくまでベンサムの人生や性格がベンサムの思想にあたえた影響についてを考えているところに加えて、素人にも何となく想像できるようにまとめられているところです。

確かにカタカナの名前が無数に出現して読者を混乱させます。しかし、恐らく時間をかければその人物同志を線で結んで関係図を作ることもできますし、なぜその人物が引き合いに出されたのかを再読してチェックすることもできます。無数の名前が出てきますが、きっと無駄ではないのです。

当時のイギリスの政治情勢にも少し詳しくなることと思います。自分はもう覚えていませんが、興味がある人なら是非覚えてみてください。

産業の発達が著しいイギリスにおいて、アメリカでの戦争で揉めていたり、技術者がロシアに働き口を求めたり、フランスが革命をしようとしていたりと、ヨーロッパの目まぐるしい変化をこの本でも知ることができます。その変化の中でベンサムが何を考えたのかが知りたい方は必見です。

ベンサムは当時、あまり評価されていなかったそうですが、ベンサムが考えたことと現代の社会には深い関係があるそうです。(X)

この本にも書いてますが、自分もパノプチコンという監視システムが現代のオフィスビルに見えます。見張られている感が仕事につながるところとか。

ビジネスマンはロボットに見えますし、ゆたぼんも言ってましたね。

この本を読むと、ロボットになるのも一興、と思えてきます。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?