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ムサビ授業13: 言語化 × 共感 = 事業化

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダーシップ特論 第13回(2021/10/04)
ゲスト講師:吉澤 到さん

◆「クリエイティブリーダーシップ特論(=CL特論)」とは?
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースで開講されている授業の1つです。
「クリエイティブとビジネスを活用して実際に活躍されているゲスト講師を囲んで、参加者全員で議論を行う」を目的に、社会で活躍されている方の話を聞き、受講生が各自な視点から考えを深める講義となっております。

◆注記
この記事は、大学院の講義の一環として書かれたものです。学術目的で書き記すものであり、記載している内容はあくまでも個人的な見解であります。筆者が所属する組織・企業の見解を代表するものではございません。

博報堂 ミライの事業室室長 吉澤到さん

今年のCL特論も残りの2回となりました。全14回の講演も振り返るとあっという間だった気がします。今回は、ビジネスサイドからのゲストとなります。博報堂の吉澤さんにお話を聞きました。

東京大学文学部社会学専修課程卒業。ロンドン・ビジネス・スクール修士(MSc)。1996年博報堂入社。コピーライター、クリエイティブディレクターとして20年以上に渡り国内外の大手企業のマーケティング戦略、ブランディング、ビジョン策定などに従事。その後海外留学、ブランド・イノベーションデザイン局 局長代理を経て、2019年4月、博報堂初の新規事業開発組織「ミライの事業室」室長に就任。

そもそも、「ミライの事業室が何をやっている部署か?」なのですが、まさに「博報堂自らがクリエイティブリーダーシップを発揮し事業主となる」組織のようです。発足当時の記事を抜粋しました。

発足の背景には、まず大きな社会の変化があります。IoTが縦横無尽に広がって生活全体のデジタル化が進む現在、リアルとデジタルの境目はなくなり、業種や産業の垣根が融解しつつあります。例えばプラットフォーマーが金融業を始めたり、逆に金融業がデータビジネスに参入する例が出てきていたり、メーカーがメディアを運営するような越境がいつ起きてもおかしくない時代です。
(中略)
そして新規事業開発の潮流に目を向けてみると、自社だけでイノベーティブなプロダクトやサービスを生み出すのではなく、色々な企業と協力してやっていこうという動きが活発化しており、博報堂にも、コンサルや支援ではなく「パートナーとして組めないか」というご要望がこの1、2年で急激に高まってきていました。

広告代理店が実事業を行うというのも時代の変化を感じさせます。私の属するコンサル業界も「アドバイザーではなく、パートナーとして協業してほしい」という要望が増えており、業界の境界がなくなっていると感じます。

コピーライターとは?

吉澤さんは博報堂に新卒入社し、しばらく経ってからコピーライターに転向されたということですが、業界のリアルな話が面白かったです。

なりたての頃に、名刺には「コピーライター」とあっても、先輩からは「自称コピーライター」であると扱われたそうです。では、プロのコピーライターはどう見分けるのかというと、Tokyo Copywriters Club(TCC)の新人賞を取っているかどうかだと。

小説における直木賞のようなもので、40歳を超えて初めて新人賞を取れる人もいるようですから、狭き門だということがわかります。実力があったのでしょう、吉澤さんは1年ほどで新人賞を取ることができたそうです。

ちなみに、TCC会員のコピーはサイトから読むことができます。吉澤さんのだと、以下の3つが気に入りました。

・叱ってくれる人が、今は、近くにいないから。

薄っぺらな便利さに慣れてしまうと、世界は大変なことになる。

古新聞は、日本最大の
 森林です。

コピーライターはポスター等のキャッチコピーを考える人だと思われがちですが、実際は「広告会社が関係するありとあらゆる言葉まわりに責任を持つ」役割だといいます。

キャッチコピーのみならず、その説明文章、企業のビジョン、ステートメント、ナレーション、ネーミング、スピーチ原稿、PR原稿など、とにかく言葉に関係するものにはコピーライターが責任を持っているそうです。

言語化することとは経営の中核である

さて、そのような前提から考えてみると、言語化の役割は大変大きいものになるでしょう。例えば、企業の存在意義を言語化することは、進むべき方向性を示すことになります。その意味で経営の中核であると考えられます。

例えば、吉澤さんが手がけた仕事の一つに、愛媛県四国中央市のHITO病院のブランディング・スローガン策定があります。

地域医療を支えてきた旧石川病院が、これからの地域のあるべき姿を考えるなかで、改めて存在意義を問い直すところから始め、「人が中心になる医療」という思いを込めて「HITO病院」と名称を付けたそうです。

さらに「いきるを支える」というコピーを設定し、病院の進むべき道を明確に示しました。これが軸に置かれることで、病院の建物や内装のデザインにも活きますし、あるべき姿(患者への提供価値等)もブレがなくなります。

個人的に、改めて言語はコミュニケーションの基礎にあるもので、ビジュアルの美しさに頼らず大事にしなければならないな、と思いました(造形の技術を学ぶと、どうしても、ビジュアルに凝ったものに走ろうとしてしまう)。

印象に残った話(質疑応答)

質疑では、実際に事業を進める上での苦労も感じられ、結局はパートナーが共感してくれないと難しい、ということが印象に残りました。また、コピーライターとしての経験が、いわゆる「クリエイティブ・コンフィデンス」になったというのも勇気づけられる内容でした。

Q.
ミライの事業など、新しいことをする際に様々な団体(企業、大学など)と協業しているとのことですが、新しいことをする時、右へならえのような日本の文化や費用対効果などの観点にて、なかなかスタートできない、もしくは参加してくれない団体も多いかと思います。スタートする時や巻き込む際に何か工夫していることはありますでしょうか。
A.
共感してくれる人をいかに探すかに尽きる。どの企業にも1人くらいはすごく共感してくれる人がいる。いま考えているまちづくりの話をすると、面白がってくれる人がいる。最初に「儲かるんですか」「いつ収益化するか」という人はずっと変わらない。経営企画や新規事業組織にも面白いことに共感してくれる人が増えてきた。見つけたら離さないというのが大事。
また、形にするのが大事。同じようなことを考えている人はいるが、実際にものにするとみんなも乗りやすい。何かとにかく形にして、実現できるんじゃないかという思いにもたせる。

Q.
仕事でさまざまな企業と協業しようというプロジェクトが立ち上がるのですが、なかなか上手くいかないのが現状です。共創ビジネスを行う上で重要なことは何でしょうか?
A.
目標を一つ上のレイヤーに置くべき。「もう一つ先に何をやりたいか」。それぞれやりたいことを持ち合っても協業にならないが、「生活者ドリブン」で考えたときに、共感できる目標を置くと上手く協調できる。オープンイノベーションでやりましょうというときに、いきなりアセットを持ってくる会社とはやらない。パートナー選びでそもそも見分ける。

Q.
クリエイティブバックグラウンドだからこそマネジメントに活きたことはあありますか?
A.
ビジョンを言葉にするというのは技術的なこと。クリエイティブバックグラウンドがあるからこそ、才能やアイデアではなくどれだけ徹底的に考えるか、どんな人にも素晴らしいアイデアがあるという感覚がある。
自分自身はクリエイターの才能はなかったが、ある程度の活躍ができた。アイデアをどうやって引き出すか、どういう立場の人であれ傾聴するというのは役立っている。
先が見えない、答えのないことへの耐性もついた。クリエイターとして活動していたときは苦しかった、何もアイデアが思いつかないという恐怖があった。その経験があったから、手を動かしていれば何か生まれるという感覚を得た。

クリエイティリーダーシップとは
〜哲学 + 共感による巻き込み〜

吉澤さんは最後に、クリエイティブリーダーシップという文脈で『システムリーダーシップの夜明け』を引用されていました。

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一人のカリスマがリーダーシップを発揮するのでなく、同じ思いを持つ共同体として社会変革を果たしていくことが、今後は必要になるのだと思いました。

おそらく、「起こす」というより「起こるという状態を作る」ということであり、最近流行りつつあるソーシャルデザインにも近い考え方だと感じます。

また、その根底には「哲学」があり、どう生きるかという価値観や真善美が大事になっていると吉澤さんは言います。その信念のもと真摯に生き、発信していくこと。クリエイティブリーダーシップを考えるにあたって、実に参考になる話を聞けました。

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