ムサビ授業8:問いのデザインと「遊び」(MIMIGURI 安斎勇樹さん)
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダーシップ特論 第8回(2021/05/31)
ゲスト講師:安斎勇樹さん
◆「クリエイティブリーダーシップ特論(=CL特論)」とは?
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースで開講されている授業の1つです。
「クリエイティブとビジネスを活用して実際に活躍されているゲスト講師を囲んで、参加者全員で議論を行う」を目的に、社会で活躍されている方の話を聞き、受講生が各自な視点から考えを深める講義となっております。
◆注記
この記事は、大学院の講義の一環として書かれたものです。学術目的で書き記すものであり、記載している内容はあくまでも個人的な見解であります。筆者が所属する組織・企業の見解を代表するものではございません。
MIMIGURI Co-CEO 安斎勇樹さん
株式会社MIMIGURI代表取締役 Co-CEO。東京大学大学院情報学環特任助教。
1985年生まれ。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。研究と実践を架橋させながら、人と組織の創造性を高めるファシリテーションの方法論について研究されています。
著書の『問いのデザイン』は、デザイン×ビジネスという界隈では有名な本なので、知っている方は多いかと思います。「#問いのデザイン」でnoteを検索すると、感想記事が多くあがっており、反響の大きさがわかります。
MIMIGURIという会社
MIMIGURIという名前に聞きなれない方もいらっしゃると思います。それもそのはずで、実は昨年の3月に合併してできた会社です。会社名は、元々の2社 ー「ミミクリデザイン」と「DONGURI」ー から来ているということでしょう。
ミミクリデザインはワークショップで有名で、DONGURIは組織デザインで有名でした。クライアントワークとしてワークショップだけでは根本的な解決にはならず、組織の課題に行き着くことも多い、とは安斎さん自身の話です。
「蛍光灯の中で死んでいる虫は愚かか?」
安斎さんのお父さんは、システムアーティストの安斎利洋さんだそうです。小さいときから面白いことを言う方だったようで、見出しの「蛍光灯の中で死んでいる虫は愚かか?」と言うのはお父さんの言葉です。
いわく、「人間から見れば愚かかもしれないが、虫にとっては至上の空間かもしれない」という問いかけだそうです。
このように、その人が当たり前だと思っていることが、違った立場から見ると全く異なって見える、というのは安斎さんの中でも大きなテーマのようです。
ワークショップも「人間が当たり前だと思っていたことを捨て去るような取り組み」と捉えられ、大学生のときにはその面白さに取り憑かれていたとのこと。「ワークショップ」という言葉自体は知らなかったものの、当時の経験は、現在の実践における原体験となっているようでした。
今回の講演の中で筆者が特に印象に残った話があります。安斎さんが大学4年生のときに開催していた体験型の学習プログラムに、吃音の少年が参加していたという話です。
その子は、プログラムには毎回のように参加をしていたものの、人前に出るとどうしても話ができないという様子だったそうです。
そんなあるとき、アイスブレイクで各自がハマっていた遊びを言う、という機会があり、その子が発した一言にスポットライトが当たることになったそう。
不思議なことに、その後は嘘のように自分の考えを話せるようになったというのが、エピソードの趣旨です。
安斎さんは、このことに衝撃を受け、「ポテンシャルはちょっとしたきっかけで呼び起こされる」ということを考えるようになったそうです。
「革新的なアイデアが生まれない状態=既存の活動システム内で100%出せていない状態」と捉え直した上で、「組織がイノベーションを起こしていくためには、これらの活動システムが新たな意味や目的を持った活動システムへと変化していく必要がある」と語っていました。
問いのデザインと遊びの要素
問いのデザインやファシリテーターの重要性は、日常生活や仕事の中でも目の当たりにします。議論が進みやすいお題、アイデアが生まれやすいワークショップ、ファシテーターの問いかけで加速する会議があるかと思います。
建設的な場になるかどうかは、ワークショップ以前に決まってしまっている、というのが『問いのデザイン』で語られている内容であり、「未来のカーナビ」を考えてもまとまらないけど、「なぜカーナビ作っているのか」をふかぼっていくと、「未来の移動時間」を考えることになった、という話が語られてました。
これに加え、今回の講演では「問い」に加えて「遊びのデザイン」にも大きな力があるということが言われていました。
「遊び」の事例としては、資生堂の事例が挙げられました。これは、ビジョンを全社的に浸透させた事例として、「奇跡のプロジェクト」と呼ばれることもあるそうです(実際、色々な記事でも取り上げられています)。
安斎さんの提案として、「8つのビジョンうち1つを削除して、新たな1つを追加して、チームによりフィットする新しいビジョンをつくるとしたら?」というワークショップがあったそうです。
「浸透を依頼したら、壊したらどうですか」の提案になったのは面白いというのに加え、1つを選んで変えるということからと自然と理念の話し合いになるという本来の目的が果たされたということです。
このワークショップは経営層と現場で約1,500回(!)も実施されたそうです。「何を差し替えるか」というのは、一見「問いのデザイン」になっていますが、楽しみながら参加できる要素(遊び)もあります。ぱっと見は面白いけど、目的にも適っているという素晴らしいデザインだと思います。
印象的だった話(質疑応答)
安斎さんで最もすごいと思った所は、どんな質問に対しても即座に答えていたことです。事前準備をしていたわけではないでしょうから、それだけで日頃から色々と考えている、ということがわかります。
以下、当日の主なQAです。
Q. ワークショップが苦手とするところ、できないことがあるのか?
A. 日常の中で揺さぶりをかけるのがワークショップ。ワークショップの中で揺さぶりが起こっても、その後は日常に戻ってしまう事になるのはリスク。「あー、面白かった」で終わってしまいかねない。
非日常で生まれたイノベーションの目が、日常に持ち込まれないということはある。会社で言えば、評価制度や構造、風土の話になることがある。それは組織のデザインにつながる。
Q.「問う力」を養う為、日々の行動なり、意識されていることはあるか?
A.「こうしたらいい」というフローはない。2つの考え方がある。
① 問いは個性が出る。問いを書き出していき、貯めていく。KJ法的に、どういうパターンを取りがちか。無意識に思考が3パターンを繰り返していたリする。そうしたときに「他の問いがいいな」と思って、それがどういうカテゴリーなのか抽象化してみる。それがパターンを変えるということにつながる。
② 問いを立てるときのトリガーは人によって違う。あえて違うトリガーを引いてみる。聞きたいこと、生み出したいもの、ネガティブなこと等々に対してトリガーが引かれたりする。あえて違うトリガーを引いてみるというのも勉強になる。
Q. 特に企業において、「遊びのデザイン」を受け入れてくれない場合はどうすればいいか?
A. 重要な論点。依頼主は分かっているが、上の人は分からないということもある。整理しなくてはいけないのは、ぱっと見の「遊び」と、内容が「遊び」というのは違う。表層を遊ぶアプローチは突っぱねられるリスクが高い。そのために徹底して理論武装をする。理論やエビデンスの出典を添えると通りやすくなる。
(資生堂の場合)
理念は抽象的、現場に結びつかない
→一方的にビジョンを提示しても自分の経験に結びつかない。
→ナラティブに、ストーリーとして解釈することが必要。
→それは研修によって身に付く。
→そのきっかけの一つとして「ビジョンを壊す」という試みを投げかけ、
自らが編集者になることで目的が実現する(という説明をした)。
Q.「問い」を作るときに意識していることはあるのか?
A. 実はパターンがある。「権威が作ったものを壊してもいい」とか。街づくりの事例で、地域のデザインで「偉い人が作ったロゴを作り直す」ということをやった。
人の行動をくすぐるフォーマットがある。深夜のお笑い番組は参考になる。文脈の設定で盛り上がる。
Q. ワークショップはある種の「文化のデザイン」。デザイナーが身を引いた後も続けるためにどうすればいいか?
A. 地域のプロジェクトでも問題になる。外部のファシリテーターがいなくなるとうまくいかなくなる。そもそもMIMIGURIは重視してきたところである(創造性の土壌を耕す)。
このプロジェクトの衝動は何かを問いかけ、「伴走をする」という考え方をする。隠れミッションとして、その社内にファシリテーターを育てるということもやっている。やっていることをオープンにして、一番熱量がある担当者に、ファシリテーターを育てていく。
社内的なプロジェクトと同じように、リフレクションも行う。ビジネス的にマイナスだと思われるかもしれないが、組織がじわじわ変わっていき、別の仕事に繋がったりする。
クリエイティブリーダーシップとは?
~研究的であること~
QAを聞いていて実感したのは、安斎さんは一見思いつきでデザインをしているようでいて、そのバックグラウンドがとてもしっかりしていると感じました。
大学時代にワークショップを研究されているときからだと思いますが、身の回りの体験からネタを仕入れ、体系化するという姿勢は学者気質だなと感じます。
ワークショップのデザインは一見派手ですが、そのクリエイティビティの裏付けには深いロジック(研究)があるということを痛感しました。
『問いのデザイン』も5年間の構想の上で出版されたということでしたが、一節をnoteで公開して一般の反応を見、それを反芻して、更にアイデアを熟成させていくという試みをされていたと思います。
今後も執筆を続けられていくということでしたが、普段から考えられている内容が深いため、次の著書も楽しみにしたいと思いました。
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