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「切迫早産」はかなり過剰診断されている

日本における「切迫早産」と欧米での「preterm labor」のあいだには実際にはおおきなちがいがあります.「Preterm labor」は「早発陣痛」と訳されるように,分娩を進めるほどのアクティブな子宮収縮を指すことが一般的ですが,日本の「切迫早産」は偽陣痛を多く含んでいて,「過剰診断」がかなり生じていると疑われます.

そこで日本で切迫早産と診断された全妊婦さんのうち,実際にどのくらいが早産にいたるかを推定してみました.日本における妊娠36週までに産まれた「早産」の割合は,「母子保健の主なる統計」によると近年はほぼ横ばいで2014年は5.8%という値でした.「切迫早産」のほうの頻度については,厚労省の「妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会」で日本産科婦人科学会周産期登録(2001~2010年)のデータが報告されていますが,11年間の切迫早産の頻度の平均は14.2%でした.

米国での早産の疫学と原因についての2008年のGoldenbergの報告によると,早産全体のなかで切迫早産の状態から早産にいたるのは4割くらいとされています(残りは早剥や前期破水,あるいは医学的適応による早産など).この数字を使うと,日本で「切迫早産」と診断された全妊婦のなかで,実際に「早産」にいたるのは16%(=5.7x0.4÷14.2)程度ではないかと推定されます.

米国では上記論文のなかでその割合は5割弱とされているので,2割弱の日本とは倍以上の差があります.両国の医療体制のちがいはもちろんありますが,それでも日本の切迫早産の診断はかなり甘く,早産のリスクがない症例も過剰診断によって「切迫早産」と診断されて,本来不要な入院管理や薬物投与,すなわち過剰治療を受けていることが疑われるのです.


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