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福島で見つかっている甲状腺「がん」は過剰診断の結果である

みなさんの誤解をときたいと思います.2011年の福島原発事故時に18歳未満だった若年者を対象に甲状腺検査がなされ,多くの「甲状腺がん」がみつかっています.しかしUNSCEARなど多くの専門家による住民の内部被曝線量が検討され,甲状腺がんをおこすレベルの線量でないことはあきらかにされています.

それではなぜ多くの「甲状腺がん」がみつかるのか? それが「過剰診断」の結果なのです.剖検で無症状の甲状腺がんが高い確率で発見されるのはよく知られた事実です.甲状腺がんによる死亡率の低さを考えると,一生発症しない微小な甲状腺がんは,ほとんどのひとが潜在的にもっていると考えられます.

最新の超音波装置で甲状腺スクリーニングを定期的に受ければ,わたしたちのほぼ全員が一生のうち一度は「甲状腺がん」と診断される可能性は高い.さらに重要なのはたとえ無症状の状態で甲状腺がみつかっても,症状がでてから甲状腺がんと診断され治療するのと,予後はまったくかわらないという事実です.

「どんながんも早期発見・早期治療がつねに望ましい」と信じるひとはいまだに多いのですが,すくなくとも甲状腺についてはあきらかな誤りです.無症状の子どもたちに甲状腺検査で「甲状腺がん」を見つけ,手術などの治療をおこなってもなんのメリットもありません.むしろおおきな害が生じるだけです.

これが「過剰診断」です.そもそも甲状腺専門医ならば,なんらかの症状を訴えるかたをまず触診し,しこりがあればそれを評価するために超音波を使います.無症状のひとたち.とくに子どもたちの甲状腺に無作為に超音波をあてるようなことはすべきではありません.検査はすればするほどいいわけではない.

薬には副作用が,手術には合併症がおこることがあるように,検査そのものにも不利益があります.福島県の甲状腺調査でも,進行しなったりゆっくりのため,本来ならば一生治療が不要ながんがみつかってくる「過剰診断」というデメリットが生じています.みつかった甲状腺がんは手術をせざるをえません.

福島甲状腺調査で多くのがんが見つかる理由として,スクリーニングによる先行発見と,過剰診断のふたつの理由が想定されます.どちらも超音波検診によって甲状腺がんは増加しますが,検診をやめたあとのがんの頻度の変化があきらかにことなるため,先行発見と過剰診断のどちらか区別できるのです.

祖父江先生のわかりやすいシェーマを引用させていただきます.左は先行発見がんだったとしたとき,右は過剰診断だったときのがんの頻度で,いずれもベースラインより増加します.そして前者では先行してみつけた分だけ検診中止後にがんの頻度が急減しますが,後者では検診中止しても頻度は変化しません.

実際に甲状腺調査でみつかったがんは先行発見と過剰診断の両者が含まれていることを,評価部会もあきらかに認めました.問題は過剰診断の占める割合であり,それが多ければデメリットが高いため甲状腺調査は続けてはいけません.いま甲状腺調査を休止し何年か経過をみればそれをあきらかにできるのです.

仮に過剰診断がなされていれば,よかれとしてはじめた甲状腺調査によって福島の多くの子どもを無意味に傷つけていることになります.本日の県民健康調査検討委員会で甲状腺調査の一時的休止をわたしが提案したのは,過剰診断の割合をあきらかにするためです.病気でないものを病気としてはいけません.

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