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妊娠糖尿病にみる医療の際限ない拡大

2010年に妊娠糖尿病のあたらしい診断基準がでて,すでに14年たちます.75gの糖負荷試験で空腹時血糖92以上,1時間値180以上,2時間値153以上のいずれか1点以上というきびしい基準のため,妊娠糖尿病がそれまでの3-4倍以上に増え,全妊婦の10パーセントが妊娠糖尿病と診断されるようになっています.

このあたらしい基準値をわたしなんぞは年のためかさっぱり覚えられず,そのつど教えてもらいます.というか心のどこかでバカバカしいと思っているからでしょうか.国際共同研究の結果によるこの診断基準を,世界で採用しているのはほぼ日本だけという現状です.米国も英国も採用を公的に拒否しています.

この基準では妊娠糖尿病の割合が増えすぎて,医療経済的にナンセンスだという考えからです.医療資源が無限にあるならいくらでも対象を拡大して医療介入するのは善ですが,いまの管理ではコストベネフィット的に意味がなく,もっと重点的に対応しなければならない病気はほかにいくらでもあるからです.

世界的にみれば比較的うまく運用されてきた日本の医療ですが,医療の高度化・大衆化によって医療費も高騰し,このままでは持続不可能と目されるようになりました.検査は多ければ多いほどよく,医療介入はすればするほどいいというこれまでの医療の思想は,すでになりたちがたくなっています.

さらに最近,妊娠糖尿病既往女性のフォローアップのガイドラインがあらたにだされました.出産したあとも毎年定期的にフォローし,将来の糖尿病発症を予防し,必要があれば薬物投与もしよう,というものです.これでは毎年毎年,フォローアップ対象の女性はどんどん累積して莫大な数になっていきます.

こういった医療が将来的にも持続可能なのか,いまわれわれの基本的な医療にたいする考えかたが問われるところに来ています.「過剰診断」「過剰治療」といった視点も,そういった文脈のなかであらためて考えていく必要がありそうです.

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