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【マンガ感想】『放課後ハチミツ』波真田かもめ

『放課後はちみつ』波真田かもめ

高校生男子ふたりの物語。BLマンガです。
波真田先生、絵も好きだし、物語もほんわかしてていいんだよね、と手に取ったら、今までになく刺さって、何度も読み返しました。不器用な男の子たちのお話です。

主人公は
「俺はまだ目覚めてないだけ」
と周りを見下すことで何とか自分を保っている、花織満夫(ハナオリミツオ)。クラスメイトとあいさつはするけど、つるむ友達はいないよう。

そんな彼には気になるクラスメイトがいます。

「ただちょっと 人より顔がよくて 手足が長くて 髪がやわらかそうで」

そうミツオに思われるのは、クラスの人気者、蜂屋心(ハチヤシン)。

クラスの中心グループにいるハチヤと地味なミツオに接点はないけれど、ミツオは気づくとハチヤを目で追ってしまっています。

ミツオが体育でケガをしたことが縁で、ハチヤと接近。ハチヤは斜に構えたミツオの物言いが面白くて仕方がないようで、何かとミツオを構ってきます。足のケガを心配するハチヤに送り迎えをしてもらうようになったミツオは、「まるで友達みたいじゃないか!!」と戸惑います。

人気者のハチヤへの憧れを素直に認めることができてなくて、自信のなさから突っぱねてしまうミツオがまあかわいい。そしてそんなこじれてて幼いミツオを、面白いと包み込むハチヤ。次第に距離を縮めていくふたりの様子にほっこりします。

さて、足が直ってしまったミツオは、ハチヤにもう送り迎えはしなくていいと伝えますが、ハチヤは、

「なんで? もうちょっと 一緒にいようよ」

と言ってミツオにキスをします。
キスをされた理由がわからず戸惑うミツオは、翌日教室でハチヤと目があっても思いっきり避けてしまいます。ハチヤはそんなミツオの腕をつかみ、立ち入り禁止の部屋に入っていきーー。

ここからハチヤの無言の攻勢がはじまるのですが、ミツオは混乱しながらも拒絶することができません。(ハチヤがミツオになにをしたかは、単行本でぜひ確認していただきたい!)

ハチヤは足をケガしたクラスメイトを率先して保健室に連れてって手当してあげるし、ミツオがハチヤの前で醜態を晒してしまってもそのことを誰にも言わない、いい子です。
しかし、そんないい子の彼がミツオにキスしてから無言でミツオを振り回すようになり、その行動の真意はわかりません。

肉体を介すだけのやりとりを続けるふたりは夏休みに入ると、肉体も言葉も介さない写真によるやりとりをし始めます。ここは今までの緊張が解け、ほっと息をつくところ。

しかし、ほっこりしたのもつかの間、学校に戻ると、ハチヤの行為は以前よりもエスカレートします。ハチヤへの憧れが止まないミツオは拒絶することも、真意を聞くこともできません。ふたりの関係は曖昧なまま卒業式を迎えます。

卒業式を終え、同じ教室にいるのに、卒業後どうするのか肝心なことが聞けないミツオ。ハチヤに促されて、やっとミツオは本心を伝えます。ふたりはハチヤの部屋で体を重ねあわせ、ミツオはハチヤも自分と同じ気持ちだったのかと期待をしますが、行為後のハチヤの態度はなんとも冷たく、ミツオはハチヤの部屋を飛び出してしまいます。
ミツオの気持ちを思って涙。ハチヤ、君はなんでそんな態度なの?

卒業し、離れ離れになったふたりは、思わぬ形で再会し、そこでやっとミツオはハチヤの本心を聞くことができます。(やっと両思いに!)

ハチヤがミツオを前にしたときだけ無言になってしまう理由、そして、こじらせいていたのはミツオだけじゃなかったことがここでわかります。

お互いの気持ちを確認し、いてもたってもいられないふたりが、ミツオの部屋に走るところが、いい。
まっすぐ、右、左とミツオの指示ももどかしく、ミツオの手を取って走るハチヤ。
このシーン一緒に走ってるようで苦しくなります。

走ってミツオの部屋に着くなりベッドに倒れこみ、服を脱ぐところがまたまたよいです。
すぐに抱き合いたくてたまらないのに、ミツオのズボンが細すぎてぜんぜん脱げない。
「なんでこんなの履いてんの?」
そうハチヤに聞かれて、顔を赤くしたミツオの答えが、せつなかわいい。(ここもぜひ作品内で確認してほしいです!)

両思いになったあと、素直になるふたりがかわいいです。ハチヤのミツオへの愛がわりと重めなことがわかり、君はこの気持ちを隠してたのか!と意外でした。(しかし、読み返してみたら、隠しきれていなくて、わたしの読みの甘さを痛感しました。BLは奥が深い。)

タイトルに「はちみつ」とあるとおり、作品のなかでキーアイテムとなるのがハチミツ飴。
ハチヤがいつも持ち歩いている飴らしいのですが、このアイテムがほのかな恋心を生みもするし、ふたりの中を裂いたりもします。

中盤までミツオ視点で話が進むため、描かれていないハチヤの気持ちは想像するしかないのですが、なんとなく、ミツオが意識をする前に、ハチヤはミツオのこと気にしていたのかな、という気がします。

出会い、夏休み、卒業と展開がスピーディーなのもこの作品の魅力だと思います。夏休み明けから卒業までの半年をふたりはどんな気持ちで過ごしたのか、それを想像するとほんとにせつない。描かないことが、時間をより感じさせました。

最後は両思いでハッピーエンドなのですが、そこに到達するまでに紆余曲折あり、青春の切なさとほろ苦さに、心がちりちりしました。
大人になったら流せたり、うまく取りなせることでも、経験がないと一々つまずいて、傷ついてしまう。成長することは傷つくことでもある。そんなことを考えた作品でした。


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