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20030612 あの人は今

色んな人に恩があるというのは書いたが、この間ある人の事を思い出した。

子どもの頃、近所に音楽一家が住んでいた。女二人男二人の四人兄弟と両親という結構大人数な家族だったが、子どもはそれぞれ自分とさほど歳も離れてなくて、よく一緒に遊んだ。
両親が音楽好きらしく、四人とも何かしら音楽をやっていた。
長女はピアノを習っていて、既に合唱の伴奏等を学校の先生から頼まれる程の腕前だった。
長男は後に中学のブラスバンド部で自分のOBの先輩となる。サックスだった(その後イケメン男子にすくすく成長し、高校生になってOBの先輩として時々中学に来たときは女子部員に大モテだった。ウラヤマシス)。
次男は鼓笛隊でトランペットを吹いていた。
次女は合唱部。

おもちゃ代わりにと安物の電子オルガンを買い与えてはくれたがレッスンには通わせて貰えなかった自分からすると、雲の上の人達のようだった。なんとなく憧憬の念を抱いていた。
ここの母親と自分の母親は交流があった。交流と言っても友達という訳ではなかったようだが、薄く長くその付き合いは続いていたようだ。

高校卒業をそろそろ控え、音楽家になりたいという気持ちだけが先走りながらも何をどうやっていいのか全く見当が付かず、進学も就職も無理な状態で半ば自暴自棄になりかかっていた。
卒業し、やはりどうしてもちゃんと音楽の勉強をしたいと思い自費で音大へ入ることを決心したが、音楽には無理解な上「高校まで行かしてやったんだ十分だろとっとと就職して金稼いで家計助けろよアホ」という考えの母親にはその気持ちは通じる筈もない。理解など最初から求めてはいなかったが、なんとなく悲しくなった。

そんな折り、前述の“音楽一家”のお母さんが自分の知らぬ間に母親を説得していたのである。別に悩みを打ち明けた訳でも「うちの母親は何も解ってくれない」とコボシた訳でも無いのに、何か感じるものがあったのだろうか。

人生は一度きり、どうか好きなようにさせてあげて下さい。あの子、ホントに音楽が好きなんですよ。

というような事を母親は言われたらしい。きっと相当不本意だったろう。それでも人の言うことには殆ど耳を貸さない人のはずが、どうやらこの言葉にはさすがに心が動いたようだった。

そして、一年のアルバイトと受験勉強期間を経て、無事地元の音大に入った。やっと念願の音楽人生がスタートした。20歳にして、ようやく「生きている実感」を得た。
(ま、今となっては・・・なんだけど)

そのうち、なんとなくあの音楽一家のお母さんとも疎遠となってしまったが、風の噂に長男が「東京芸大を卒業し、プロのサックス奏者として活動している」というのを知る。本人のたゆまぬ努力と家族のバックアップが大きな実を結んだんだな、と、我が事のように嬉しくなった。

この前、この長男の名前でネット検索をしてみると演奏会の案内等が沢山出てきた。「頑張ってるなぁ」と、よく遊んで貰った頃の事を懐かしく思う。そして、あのお母さんは元気なのだろうか、とも。
あの人の言葉がなければ、今頃自分はどうなっていただろうか。
(ホームページのダイアリーに載せたものを転記・加筆)

追記:未だにあの女性とうちの母親はどういう関係だったのか、そして何故母親にそんな忠告をしたのか、よくわからんのだ。ま、うちは近所でも有名な○○○○家族だったからナァ~(爆)