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古のオタクが12年ぶりにAKB48のコンサートに行った話 -諸行無常へのアンチテーゼ-

 自分がAKB48にどハマりしていたのは、高校1年生の頃だった。アルバイト禁止の進学校に隠れてこっそりバイトをし、稼いだささやかなお金はほぼ全額握手券と公演に費やした。「神7」と呼ばれた主要メンバーの卒業とともにオタクからフェードアウトしたものの、当時のことは今でも「良い思い出だった」と思っているし、大金(と言っても高校生にとってはというレベルだが)を落としたことも全く後悔していない。ただ、自分の中でどこか区切りをつけ、それからは全くグループと関わらずにこの歳まで過ごしてきた。

 俄かにグループとの関わりが復活したのは今年の夏。AKB48の衣装展に仕事で関わる機会があり、その縁で関係者の方に日本武道館のライブに招待していただくことになった。メンバーに至っては最年長で最早「生ける伝説」とも言えそうな柏木由紀以外顔も名前も知らないといった状態。知らない曲も多いだろうし楽しめるのか一抹の、いや四抹くらいの不安もあったが、結論から言うと熱を上げていた12年前よりも楽しむことができた。今回が劇場公演の名曲を集めたリクエストアワーベスト30ということで昔の曲が多かったこともあったが、大きな要因は「生歌で」ライブを実施するようになっていたことだろう。全盛期の頃のAKB48は「お遊戯会」などと揶揄されることがあったように、基本的にライブは俗にいう「口パク」で行われていた。人数が多いため歌唱に一定のクオリティを持たせるための措置だったのかもしれないが、自分からしたら東京ドーム公演に行ってCD音源を聴かされるのは心のどこかで寂しさのような感情を感じていたのも事実だ。12年間グループとの関わりがなかったため、今回も同じく「口パク」でのステージになると心して開演を迎えたがーーーー。


 ライブの一曲目は「素敵な三角関係」。自分がオタクを卒業するかしないかくらいの時期のナンバーなので選曲の時点ではそこまでノスタルジーを感じて気分が上がることはなかったが、あるメンバーがAメロを歌い始めた時に衝撃を受け、思わずのけぞった。「生歌だ」。もちろん訓練しているとはいえ、歌の才を見込まれたメンバーばかりではないし、ダンスしながらの歌唱になるので音程が外れたり、声が聴こえづらくなったりしてお世辞にも上手いとは言えない箇所もある。だが、日々の営みを切り詰めて練習したであろうアイドルたちがステージ上で一生懸命に歌って踊る姿は、12年間現場から離れていた自分にアイドルオタクだった当時の、いや、それ以上に熱い気持ちを感じさせてくれた。前日のライブで卒業を発表した柏木が吐露した「今のAKBが1番好き」という言葉は決して現役メンバーへのおべっかなどではなく、「アイドル」という職業に誰よりも真摯に向き合ってきた彼女の本心だったのかもしれない。結局自分はその後開演時の逡巡などなかったかのようにライブに没頭。「ウッホウッホホ」で笑い、「only today」で懐古し、「てもでもの涙」で泣き、「夜風の仕業」でまた泣いた。

 ただ、12年ぶりのライブをここまで楽しむことができたのは、決して生歌だけが要因ではない。柏木由紀というメンバーが当時と変わらずグループに在籍し続けてくれていたこともまた、自分にとっては大きかった。諸行無常というのは森羅万象に言えることで、自分が大学生の頃に熱心に参加していた音楽サークルも、野球を見始めた頃の強かった読売ジャイアンツも、現在では当時の面影を残していない。このような経験を通して「変わらないものなどない」とどこか諦めの境地にあった自分にとって、30歳をとうに超えてなお人気メンバーとして活躍する彼女の姿は、遠くからでも一瞬でその存在を認識できるほどに輝いて見えた。もちろん本当の「永遠」などはなく、柏木は4月をもってグループを卒業するわけだが、自分がアイドルオタクを辞め、高校大学を卒業し、社会人として独り立ちしてこの度ライブに参加するまでの12年間、ほぼ当時のままの姿で居続けてくれた「諸行無常へのアンチテーゼ」とも言える彼女の姿のおかげで自分は疎外感を感じずにライブに入り込めたし、卒業後も抵抗なくグループを見ることができる気がする。楽曲「only today」のサビにある「居てくれればいいから」という歌詞が、昨日はなんだかこれまでよりも心に刺さった。



 当然ながら12年という年月は長い。野球をやめて伸びかけの坊主頭を携え、何を着ればお洒落なのかも分からない田舎の男子高校生だった自分も、今ではハイカラな海外ブランドの奇抜なセットアップを着ていたりする。時間というのは万物に等しく流れるものなので、柏木も御多分に漏れず12年分歳をとったはずだ。顔つきは以前に比べてやや大人びているし、10代と思われるメンバーがとなりではしゃいでいても一歩引いたところから見守っているように見える。それでも、アイドルとして君臨するその佇まいは12年前から変わっていない。同年代のメンバーは結婚して子供がいたりと第二の人生を歩む人が多い中、彼女は10代20代のメンバーに交じってステージに立ち続け、今なお確固たる人気を保ち続けているのだ。メンズである自分には彼女の努力を正確に推し量ることはできないが、おそらく想像も及ばないほど日々の生活を顧みて、気を遣い続けてきたのだと思う。そのお陰で自分はライブを楽しみ、グループに再び興味を持つことができたことを考えると、一度も「推しメン」ではなかった彼女に無上の敬意を表さずにはいられない。自分がオタクを卒業する前から13年にわたって歌い続けている柏木のソロ曲「夜風の仕業」には、おそらく興味がない人が聴いても圧倒されるほどに彼女の「想い」が積み重なり、唯一無二の「深み」を醸成している。

 長くなってしまったが、そんなこんなで再びAKB48への興味を取り戻した自分は、今後これまでよりもグループの活動に注目していくつもりだ。イベントへの参加などは今のところ考えていないが、昨日のライブを見返すため独占配信を実施しているhuluに登録し、1日目2日目のライブ視聴のために課金、8000円を早速溶かしたことを考えると、可能性はゼロとは言えないかもしれない。「推しメン」については決めかねているが、お気に入り楽曲「only today」のステージで太陽のように輝いていた研究生の山﨑空が気になっている。いつの間にかメンバーを見る視点が変わり、自分が歳をとったことを感じつつ、12年前の自分が奇異の眼差しを向けていた大人オタクたちの気持ちの片鱗を理解した28歳の秋だった。

(了)

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