ショートショートホラー?『履歴を愛しすぎた妻』

僕と妻の付き合いは長い…
高校1年生から付き合っているから、もう13年くらいの付き合いになるか…
妻は優しくて…
おっちょこちょいなところもあってそこもまた良い…
それに加えて、僕好みの顔をしている…
妻は、僕にとって完璧で究極のアイドルなのである…

ただ…
ただ…
妻には一つだけ問題点がある…

――――妻はインターネットの検索履歴を愛しすぎているのだ。

インターネットブラウザは検索履歴が90 日間と一番長く残るものにわざわざしているし…
毎日、寝る前に妻は日課として検索履歴を見ている…
履歴が消える直前になるとスクショを撮って写真に保存している…

数年前、
「そんなに検索履歴ばかり見て何が楽しいの?」と気になって聞いたことがある。
彼女はまるでエイの裏側のような変わった笑顔を浮かべ、笑いながらこう答えた。
「自分の存在価値を確かめるためだよ」
「履歴を見るとさ…その時分に自分がインターネットで誰と話したかとか…旅行でどこに行こうとしてたのか…どんな本、漫画、アニメ、映画…後、芸能人のスキャンダルに興味持っていたのかがわかるじゃん?」
「日記は3日坊主で終わっちゃうけど…検索履歴だと勝手に記録してくれるじゃん?見るだけ、スクショするだけで自分の人生の記録が確かめられる…それって素敵なことじゃない?」

僕はそのとき、妻の言葉がよくわからなかった。
僕がインターネットで検索するのは基本、昔からアダルトな内容のことばかりで…
その日の内に検索履歴を消すことが習慣になっていたからだ。
後、最近はシークレットモードというものがインターネットブラウザで導入されており、それを利用している。
シークレットモードは検索履歴を残さないモードで非常に重宝している。
なんせ、検索履歴を消すあの面倒な作業が無くなったからだ。

つまり…

―――――僕にとってインターネットの検索履歴は邪魔者でしかない。

僕と妻はパソコンを共有している。
妻は動画配信サイトで動画を見るとき以外は基本スマホで完結しており、パソコンを開かない。
そのため、パソコンを2台買うのはもったいないため、共有しているのだ。
パソコンはリビングに置いてある…

ある日のことだ。
その日は…
残業の疲れにより…
僕は、ストレスがたまっていた…
家に帰りドアを開け、三和土で靴を脱いで…
廊下を忍び足で歩き、寝室に向かう…
そおっとドアを開けると…
妻は寝ていた…
よし、しめた!…
思う存分アダルトサイトを見れるぞ!
僕はそう思い立った。

僕は、リビングに忍び足で進み、共有PCでアダルトサイトを見始めた…
『巨乳』
『お姉さん』
『熟女』
『NTR』
など自分の好きなジャンルを調べていると…
ある作品が目に止まった。
お気に入りの女優の新作が出ていたのだ。

これは好機!と
3500円と若干値段は張るものの…
すぐさまスマホを取り出し、バーコード決済サービスを経由して動画を購入した。
イヤホンを付ける。
タイトル画面のシーンが終わり、しばらくしたら…両耳に淫靡な声が響き始めた…
最高だぜ…

そして…
僕は自分のズボンを脱ごうとした…
そのとき、あることに気づいた…
インターネットブラウザがシークレットモードになっていなかったのだ…

「うわあ…」
思わず声が出てしまった…
もちろん…妻が寝ているため小声だ…
心臓の拍動が早まってくる…
まずい…まずいぞこれは…
妻に見つかったら殺される!
だめだこれは…早く何とかしないと…

すぐさま僕は、インターネット履歴を消した…
いちいち選択して消すのがめんどくさかったから
その日の検索履歴を全部消すボタンを押した…
そして消した後に気づく…
――――妻が検索した履歴は無かったのか…?

また動悸が始まった…
僕は自分の胸の高鳴りをおさめるためにベランダに出て電子タバコを吸い始めた…
しばし夜空を眺めた…
タバコの煙がモクモクと空に飛んでいく…
まるで山中の霧のようだ…
霧を眺めていると…
もうどうにでもなっちまえという考えが、つと心の中を支配し始めた。
そもそも、僕の妻が異常なのだ…

ゴソゴソと衣擦れのような音がした…
妻が起きてしまったらしい…
窓を開けて外気が入ったためか、それとも窓を開けたときか?
妻は眠気眼を浮かべて話しかけてきた。
声はまだ起きたてという感じであくびまじりではっきりとしない…
「はあ…帰ってだの?」
「そうだよ…」
妻の眼はまだちゃんと開いてない…
「あれ?パソコン開いた?」
うっ…
また、心臓の拍動が速くなる…
平気顔を装って返事を返す。
「いやあさ~気になっているゲームがあって…それを調べてたんだよ」

「嘘だ…」

妻の声が突然明瞭になった…
「私が調べた履歴が残ってないよ…」
妻は人間から食べ物を盗む際のトンビのような鋭い眼をしていた。
「うっ」
体中の穴という穴から汗がドバドバと出てきた…
何か言い訳を考えないと…
「いや~ちょっと手違いで…」
「イヤホンなんかつけてなんかいやらしいもんでも見てたの?ゲーム調べるのにイヤホンなんていらないよね?」
「いやそれは…」
「…」

妻は僕から視線を外し、俯きながら窓を閉めてカギをかけた。
「おい!お前!!」
ベランダからそう呼びかけたが…
妻は踵を返し寝室に行ってしまった…

僕は
ベランダで寝ることになってしまった…
あんまりだ…

次の日、妻は正気に戻ったのか
「昨日はごめん!」と何度も謝り、最後に
「ただ、これからを気を付けてね」
そう冷たい声で述べた。

僕はこの一件以降怖くて…
共有PCを使えなくなった…

僕は今回のことで妻の過去が気になり始めた。
僕が妻と知り合ったのは高校時代で…
妻はいつ聞いても高校時代以前のことを話したがらない…
過去に何かがある…そう思ったのだ。
妻には言わずこっそり有休をとり、会社に行くふりをして妻の実家に行ってみた。
チャイムを鳴らすと…
妻の母が出てきた。
「あれ?敏郎さん?なんでスーツ姿なの?よし子は?」
「よし子は家です。今日はよし子の過去について聞きに来ました」
その言葉を聞いて何かを察したのか彼女の母はすぐさま家に上げてくれた。
リビングで彼女の母と2人きりで話し合う。
彼女の母は慎重な面持ちだ。
「よし子ね…高校時代以前のこと話したがらないでしょ…」
「ええそうです…」
話が速い…彼女の母もそれを気にしているらしかった…
「よし子には私が言ったって言わないでね…」
「はあ…」
なんかベタなセリフだな…と一瞬思ったが、それはさておき彼女の母は自分の娘の過去について話し始めた。
「よし子には中学時代、親友がいたのよ…」
「よし子の親友はある日、殺されてしまってね…」
「しかも…よし子のせいでよ…まあ間接的だけどね…」

あまりの展開に思わず僕は立ち上がり、座っていた椅子が後ろにずれた。
「どういうことですか?」
声を荒らげる。

「その親友はスマホを持ってなくて…彼女のスマホを借りてブラウザでSNSとかやってたのよ。当時まだスマホそこまで普及してなかったじゃない?」
確かに、13年くらい前となるとまだスマホはそこまで普及してなかった。
母親は話を続ける。
「そのSNSで出会った男に殺されたのよ…その親友が…」
「えっ」
「よし子もその時、事情徴収を受けたんだけど、スマホの中に履歴とかが全く残ってなくて…多分だけど、親友が貸したら毎回消してたのよ…それでよし子は親友がその怪しい男とメッセージのやりとりをしていることに気づけなかったみたい…」
「よし子にそんな過去があったなんて…」
「それ以降よし子おかしくなっちゃって…私がスマホを貸さなければ良かった…って後悔の念がずっと頭の奥底に張り付いているみたいで…」
「あれ?」
僕は思わず気の抜けたへんてこな声を出した。
よし子の母はへの字眉で頭の上に「?」を浮かべたような顔をしながら僕を見た。
それと履歴を残すのがどうつながるんだ…?
僕はその疑問をぶつけようと思った。
「あのお母さま…今回の話と関係ないかもしれないんですが…突然すいません…よし子はなんで履歴をずっと残す癖みたいなのがあるんですか?」
気になる欲を抑えられずまくし立てるような早口になってしまった…

「ああ、それか…」
「親友はよし子のスマホを使ってSNSをやってたんだけど履歴もクッキーも消されてて警察も教えてくれないし…彼女のSNSアカウントは結局のところよし子も私もわからなかったの。」
「それがよし子悔しかったみたいで…彼女のSNSアカウントを眺めることで彼女が存在した記録ってのをよし子は見たかったんでしょうね…」
その話を聞いて僕は今までの疑問がすべてつながった。
そうか…
よし子は…僕の妻は…自分がいつ亡くなっても…
自分が存在した証を残すために履歴を残しているのか…
全てがつながった…
僕は、彼女の母に礼を言いすぐさま帰路についた。
家のドアを開けると床掃除をしているよし子がいた。
「よし子!」
僕は思わず大声で叫んだ。
「あれ?敏郎仕事は?」
「そんなことはどうでもいい!」
僕は妻を思いっきり抱きしめた。
母の話を聞き、彼女の不安の正体をようやく知り、
彼女に安心感を与えようと思ったのだ…
困惑しながらも、妻は僕を受け止めた…
「大胆ね」
そんな変なラブラブタイムを終え僕と妻はリビングに歩き出した。
そしてふと気になっていたことを妻に聞いた。
「そういやさ…昨日よし子の履歴消したじゃん?何の履歴だったの?」
妻は頬を赤らめた…
「いや…それは…さっきも調べたんだけど…とても私の口では…」
「え?」
僕はすぐにパソコンに目掛けて駆けて行った。
履歴を調べた。
そこには…セックスレスについて調べた履歴がたくさん載っていた。
そして…なぜか自分が買ったあのアダルトビデオを見た履歴まであった。
僕は後悔した…そういや…
履歴は消したけど…
アダルトサイトのクッキーは残してたままだった…
妻に…僕の趣味がばれてしまった…



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