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アジカン的モラトリウム②

 ブラックアウト。東京という街を走る車両の、揺れる足元。ゆがむ線路の先と、ぼんやり光る夜の生活のしるし。

 立ち止まりたいだけなのに。

 静止することのない社会と、停止することのないシステムの中で。

 「息を吸って、命を食べて、排泄するだけのサルじゃないと言えるかい?」


 答えは出ない。そもそも存在していない。

 だから歩く。ただ、荒野を歩く。たった一人で。

 いつの日か、どこかへ辿り着けると信じて。いつだったか、そう信じることのできた自分を思い出しながら。

 まだ帰りたくはない。この音楽が奏でる、温かい闇の中で私はうずくまっていたい。

 ゆっくり歩こう。寄り道して、遠回りして。

 Cause we've got, nothing.

・ ・ ・ ・ ・

 煙を吸って顔を上げると、錆びてボロボロになった鉄骨の穴から空が見えた。

 格子状に切り取られた世界。僕はあちら側へ行けるだろうか?

 マンションとビルに挟まれた日当たりの悪いその場所に、か細くて背の低い木が二本だけ生えている。数えられるくらいしかない緑の葉は、僕に向かって酸素を送り出してくれているのかもしれない。

 僕の頭が溶けたのは、初夏の風に心地よく吹かれたからかもしれない。

 それは、あの曲を初めて聴いたときのような感覚だった。

 「時代に花を添えたくて、筆をとってたわけじゃない」

 そう。誰にもわからなくていい。もう、誰にも伝わらなくていい。

 何もかも、pointlessでいい。ウェス・アンダーソンの映画みたいに、ただ美しいカットの羅列。

 すべては流れ続ける。それでいい。

 今日はゆっくり休もう。

 Cause we've got, nothing.


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