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映画「グリーンバレット」レビュー

フリーの殺し屋業を営む国岡(伊能昌幸)に6人の見習い殺し屋を3日間の合宿で鍛える仕事が舞い込んだ。
6人の見習い殺し屋は年若く,たまたま性別が全員女で,何をやっても長続きしない,父親に才能を見限られた,キャッチセールスに騙され続けてる,常に2人1組で行動,1日スマホを弄ってる…等々,
個性は豊かではあるが殺しの技術はゼロで格闘も出来ない。
こんな…「遠い未来」に期待する他無い面々を国岡は鍛え始めるのであった…。

「ベイビーわるきゅーれ」「最強殺し屋伝説国岡」「国岡ツアーズ 大阪編」と阪元裕吾監督作を観て来て,一番監督の苦悩を感じさせられる一作である。
見習い殺し屋役を演じる6人は2021年のミスマガジン受賞者でHPを参照すると1982年からの歴史のあるミスコンで
受賞者は水着姿で週刊少年マガジン誌,週刊ヤングマガジン誌に水着グラビアが掲載されている。
映画の出演は今作が初めてで演技の指導を受けた事はなく武道の心得もなく,殺陣も出来ない。
実際,本作のラスボスと6人が対峙する緊迫する場面があるのだが,
次の瞬間フルボッコにされて血塗れになって地に伏せる6人を勝ち誇る様に見下ろすラスボスの画が展開されていて,僕は思わず「はあ?」と叫んでしまった。
僕はラスボスに6人が叩きのめされる過程…つまり殺陣が観たかったのであるが,
そうした画を撮れる程,6人の演技力と殺陣の技量が伴っていなかったと言う訳だ。
また,それ以外にも恐らく色恋禁止令が敷かれていて,またヤングマガジン誌のグラビア程度のサービス場面すらない。
精々が国岡を尊敬してると言う女子1名,国岡の助言を真摯に聴く女子1名が登場する位で,手すら握らない。

要するに演技力もない,殺陣も構築出来ない,色恋描写も出来ない,厳しい色気制限から全員がジャージ以外の衣服が着用出来ず,
期待出来るのは「未来」だけ,と言う企業の面接担当官もビックリの無理ゲー状態で映画を作らねばならぬ監督の苦心が慮られると言いたいのである。

そんな「何者でもない」若い女性出演者達に「何者でもない自分」を重ね合わせて,感情移入する若い人が恐らくいるのだろうと愚考する。
「あした」しか期待出来る商品価値が無く,その期待が裏切られない何の保証も無いのが若者の一大特徴であって
「6人の見習い殺し屋達」を我が事のように受け止める,日がな一日詰まらなそうにスマホを弄り続けて
今日もまた昨日と同じ1日が無為に過ぎ去って行く「何でもない若者達」が本作を支持してるのではないだろうか。

「ベイビーわるきゅーれ」の2人組にしても伊能氏(国岡)にしても「殺陣が出来る」って長所・特技・職能があった訳で本作には,それが無いという急所がある。
しかし監督は,その急所を逆手にとって「何でもない若者達」の共感を得たのではないだろうか。

特典映像の舞台挨拶で監督が見習い殺し屋役の6人に腫れ物に触る様に質問し,
6人が質問された事にだけボソボソっと答え,あとはひたすらダンマリを決め込んでたのが印象に残ります。
殺陣を学ぶ時間を取る事もスケジュール上許されず,厳しく指導する事は更に許されなかった事が偲ばれるのである。

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