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映画「アリゲーター」4K UHD レビュー「本当にスティーヴン・キングは高橋留美子先生の見立て通り犬を愛してるのだろうか?」

本日「アリゲーター1&2 UHD+BDパーフェクトBOX」が届き,
「アリゲーター1」を視聴したのでレビューを書きたいと思う。

ワニの恐ろしさを煽るアトラクション会場で販売されたいた赤ん坊のワニを
ペットに購入した少女マリサはワニの赤ん坊を家で育て始めるものの
家中に糞害を撒き散らすワニの赤ん坊に彼女の父が激昂し,
彼女が学校に行ってる間に水洗トイレで流し,
彼女にはワニの赤ん坊は死んだと伝える。

12年後,下水配管工が行方不明となり彼の片腕だけが発見される。
腕は巨大な「何か」に食い千切られたかの如き歯形が付いていた。

事件の担当者となったマディソン刑事(ロバート・フォスター)は
次いで「何か」に惨殺され,「足」だけの姿となって発見された
ペットショップ屋の親父(シドニー・ラシック)が密かに子犬を製薬会社
に売却し,製薬会社から実験済み・用済みの子犬の死体を受け取って
下水道に処分してた事を突き止める。

下水道に「何か」がいて子犬の死体だけでは飽き足らず
人間に手を出したのでは…。

マディソンは巡査のケリーと共に下水道の探索を行っていると
体長10mの巨大なワニが襲って来てケリーを喰った。
彼の「下水道に巨大なワニがいる」との報告を受けた
署長は彼に精神科を受診するよう勧める始末。

彼は今や爬虫類の研究者となったマリサ(ロビン・ライカ―)と組んで
真相の究明に乗り出すのであった…。

本作制作のオファーを受けたルイス・ティーグ監督は
脚本の第1案を「箸にも棒にも掛からぬ」と切って捨て
脚本家をクビにして
「ピラニア」の脚本を書いたジョン・セイルズを招聘した。
ティーグもセイルズもロジャー・コーマン門下生の旧知の仲なのだ。

ティーグの発想はこうだ。
「巨大なワニ」は「何かの象徴」でなくてはならず
マディソンにとっては2度も相棒を死なせた「過去の悪夢」の象徴であり
彼は「過去の悪夢」を乗り越える事によって成長出来るのだ。

また「巨大なワニ」は製薬会社の
産業廃棄物(開発中の成長ホルモンを投与されて死んだ子犬)を
喰って巨大に成長した「巨大企業の犯した悪行の産物」であり
最終的に製薬会社の成長ホルモン開発担当者と会長は
巨大なワニによって裁かれなくてはならないのだ。

この…きっわっめってっ底の浅い人物造形及び
きっわっめってっ通俗的な大企業批判こそがティーグの本懐であって
「コーマン門下生」の証なのだ。

全く…。
「サメはあくまでもサメであって『何かの象徴』ではない」
と舵を娯楽に振り切ったスピルバーグとは大した違いである。

マディソンとマリサは同衾する程懇意となるが,
彼の不用意な発言でふたりの関係に亀裂が入る描写がある。

一度亀裂の入った人間関係は決して修復出来ない。
…が本作に於いてはマディソンがマリサに
「さっきはゴメンね」と謝るだけで彼女は彼を許し,
元通りの仲睦まじい関係が復元してしまうのだ。

この…人の心の機微の「徹底的な安さ」こそが
本作が映画向きと言うより
テレビドラマ向きである何よりの証明であり,
本作は劇場公開前に米国ABCテレビでテレビ放映される事が決まり,
現行の本作品の尺の91分では
2時間のテレビムービー枠では尺が足りないので
ABCテレビの要請に応じて7分追加撮影して
尺の長さを98分にしてテレビ放映されている。

本商品にはその「米国TV放映版」が収録されている。

実際…僕は本作品を今回初めて視聴したが
金のかかった映画を観てると言うよりも
安上がりなテレビドラマを観てる気持ちとなるのである。

なれど…作家のスティーヴン・キングが本作品を観て感激し,
「俺の「クージョ」を映像化するならルイス・ティーグしかいない」
とティーグ監督を指名し映画「クジョー」を作らせたのだ。

「クージョ」は不倫中の妻が幼い子供と共に
狂犬病に侵されたセントバーナード犬・クージョに襲われ
車の中に閉じ込められエンコした車中で
「コレはワタシが姦通の罪を犯した罰なんだ…!」
との妄想に取り付かれる話である。

キングの発想の根底には「通俗」があり
その「通俗」を一流のストーリーテリングで
昇華させる事が彼の本懐であって
彼の「通俗魂」がティーグ監督の「通俗魂」に共鳴したのであろうか。

また本作の最後に大爆発が起こって「諸悪の根源」諸共吹っ飛ばすのが
実に実に「スティーヴン・キング的」と言えるかな。

漫画家の高橋留美子先生は映画「クジョー」を観て
「原作には確かにあった犬に対する愛がない」
「犬が可哀想なだけの映画」
と切って捨てた。

ティーグ監督は
作中実験台となる子犬の声帯を切除し吠えられないようにした
動物愛護精神の欠片も無い「人でなし」であってキングもソレを承知の上で
映画「クジョー」の監督として指名した事を考えると
僕のキングを観る目が「クージョ」を観る目が
変わらざるを得ないのである。

「本当にスティーヴン・キングは
高橋留美子先生の見立て通り犬を愛してるのだろうか?」

ってね。

ワニは子供の頃から大人になるまで形状が殆ど変わらず
本作に於いては様々な年齢のワニを着ぐるみのワニと一緒に用いたと言う。

本商品には「ゴールデン洋画劇場」「日曜洋画劇場」の
2種類の吹替音源が収録されているが
「ゴールデン洋画劇場」の吹替音源では
子犬の声帯を切除し吠えられない様にする描写はカバーされてない。
まあ当然だなあ。
音声解説はルイス・ティーグ監督と主演のロバート・フォスター
それから司会進行の3者によるもので
拙レビュー執筆の大いに助けとなった。

本作制作中,どうしても怖くならず監督がユニバーサルに電話をかけて
「どうすれば「ジョーズ」みたく怖くなりますかねえ?」
と聞いたという挿話が監督の人となりを良く表している。

本作の「続編」の監督もして欲しいというオファーがあったそうだが
「主演がロバート・フォスターで脚本がジョン・セイルズなら考える」
と答えて「それっきり」となり
「アリゲーター2」は別の人が監督となった。

本パーフェクトBOXには4枚のディスクが収納されているが
DISK1:アリゲーター4K UHD
DISK2:アリゲーターブルーレイ
DISK3:アリゲーター米国TV放映版
DISK4:アリゲーター2 2Kレストア版ブルーレイ
となっている。
「アリゲーター1」の優遇ぶりと
「アリゲーター2」の冷遇ぶりが1目で分かるのである。





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