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映画「クリプティック・プラズム」レビュー「ブライアン・ポーリー監督の考える「人類補完計画」。」


「VIDEO VIOLENCE RELEASING」(VVR)と言っても
知らない人の方が圧倒的に多いだろう。
VVRはtwitter改めXで新作ソフトの告知をして,
新作ソフトは基本的にAmazonや楽天等の大手通販サイトを介さず
オフィシャルサイトでの販売のみという
ヒロシニコフ代表が輸入・字幕翻訳・販売・梱包発送迄を
全て個人で行ってる世界一小規模なレーベルで,
近年になって大資本のジェミニ・エンタテインメントと組んで
「ウィッチスターズ 流星からの寄生体X」
をAmazonの流通販路に乗せた事でグッと知名度が高まり,
本年9月にアムモ98と組んで「キャット・シック・ブルース」の
通常版をAmazonの流通販路に乗せる事が予定されていて
目下日の出の勢いを誇っている。

なれどヒロシニコフ代表がメジャーデビューに浮足立つ事は全く無い様で
「クリプティック・プラズム」「夏バテ女」等の新作ソフトを
相変わらずオフィシャルサイトのみで頒布されている。

VVRのソフトの特徴は一言で言えば
「信じられん程のウルトラゴア」と「インディーズ系」であって,
ホラー映画愛好家の端くれとして看過出来ない
「「尖った映画」を生み出す特異な才能」を次々と発掘・紹介されていて,
オフィシャルサイトでの販売が開始されるや否や
好き者達の争奪戦が巻き起こり一瞬で完売する事もしばしば。
流通の安定したメジャー進出を期待する声が多い中,
ヒロシニコフ代表の「安定」に背を向けた姿勢に
益々ファンが増える昨今である。

年寄りは前置きが長くなっていかんね。
炎天下で長話して熱中症でバタバタ生徒を倒す
小学校校長を批判しておきながら
僕がその校長になっていたという御粗末である。

「クリプティック・プラズム」初回版の争奪戦に敗れ去り,
悔し涙で枕を濡らす日々が続いたが
今こうして「通常版」が届いたと言う訳だ。
オタクの端くれとして「通常版」を購入するなど,
いっそ死んだ方がマシなのだが,レビューを書いてから死ぬ事にしよう。

これ迄のレーベルロゴを一新したロゴはアナログ画質のビデオ画質で,
令和の御代にVHSビデオでソフトを
リリースするソフトハウスへの共感と目配せを感じさせる。

西城秀樹が「ターンエーガンダム」の
主題歌「ターンエーターン」で次の様に歌っていたのを思い出す。

刻(とき)が未来に進むとォォォォォ
だッ・れッ・がッが決めたんだッァァァァァ!!

刻(とき)は遡っても一向に差し支え無いのだ。

TV局に自分の作りたい番組を売り込んで予算を勝ち取る
企画屋のデヴィッドは「世にも奇怪な現象」の企画を通し
アシスタントのブライアン(監督本人)と共に
「町から消えた住人の怪」を追う。

その誰も居ない筈の町で「自分自身」と遭遇したデヴィッドは
「この町はワームホールで異次元と繋がって
俺は「異次元の俺」と遭遇したんだ」と推測する。

でもねデイヴ。
僕は今「別の事」を考えてるよ。
「自分を見た」って事はオマエ…もう直ぐ死ぬんじゃねえの?

優れた創作物が何故「優れてる」か分かります?
それは視聴者・観客の想像力を活発に刺激して,
盛んに「次の展開を予想させる」からなんです。

予想が当たるとか外れるとか「そんな事」は問題じゃあないんです。
「話に観客を引き込む事」の方が100万倍重要なんです。

ブライアン・ポーリー監督は
「我々の最も身近な異次元」として「地獄」を想定し
終盤は「地獄の光景」に対する監督のイマジネーションが炸裂する。

「それ」は一個の肉の塊であり
肉の塊の中に生皮剥がされ痛覚が剥き出しになった
子供がいて母親がいて父親がいてデヴィッドがいて
痛みに耐えかねて全員が吠え,未来永劫続く苦痛を「共有」してる…。
「個人の尊厳」をガン無視した一個の肉塊が
監督にとっての「地獄」なのだ。

「シン・仮面ライダー」で緑川ルリ子はショッカーの首領にして
兄であるイチローが目指す
「魂だけが存在し互いに繋がり合って
以心伝心で分かり合えるハビタット空間」
を「要するに地獄よ」と斬って捨てたが,
ハビタット空間は庵野監督の「人類補完計画」の成れの果てであって
監督が「このキモオタがッ」って石を投げられ出血しても
「人と繋がりたい気持ち」がどうしても捨てられない
監督にとっての「賽の河原」なのだ。

庵野監督が「賽の河原」として描いた「地獄」を
ブライアン・ポーリー監督は
「苦痛を共有して未来永劫吠え続ける地獄の亡者共の
肉体までもが融合して個人の尊厳が消失し一個の肉塊と化した姿」
…同監督にとっての「人類補完計画」として描いたのだ。

海外から見ても人類補完計画の本質は「地獄」なのだ。

監督が演じた「ブライアン」は「地獄の光景」の目撃者であって
その目撃内容を基に,この映画を創ったのだ。
つまり手塚治虫先生の「火の鳥」異形編で言う所の可平なのである。

監督が映画の中で粘々(ネバネバ)した透明な溶解液を用いているのは
「この世とあの世が溶けて繋がって行く模様」を描写してるのだ。

かつてルチオ・フルチは地獄の門が開くと,
あの世とこの世が「地続き」になって,毎日が彼岸になって
死者が甦り常識では計り知れない事が起きると
イマジネーション全開にして描いたが
昨今ではあの世とこの世の境が融解して2つの世界が融合し
「かつて人間と呼ばれたもの」が溶けながら融合して
「生命のスープ」になるか「一戸の肉塊」となるのかも知れません。
庵野さんは肉が嫌いだから前者を選んだ訳。

好きな人と溶け合うのは素敵かも知れないけれど
嫌いな奴と繋がるのだけは絶対にイヤ。
「絶対にイヤ」だけど,どうしても人と繋がりたい気持ちが捨てられない。

「そこのところ」の心の機微を漫画家の平野耕太先生は
「進め!!聖学電脳研究部」(角川書店版)の描き下ろし(2003年)で
ひとりのゲームオタクのデブの高校生に
次の様にモノローグで語らせている。

「フン」
「なんとも」
「なんとも日本だね」
「なんともこれぞ日本」
「オタクの聖地だ」
「本当に天国」
「しかし同時に」
「地獄と感じる時も」
「だが」
「くっつきたくはないが離れたくはない」
「なんともはや」

「オタクの心根」を
「くっつきたくはないが離れたくはない天国と地獄の関係」
でズバッと表現される平野先生。
庵野さんとは「言い方」は違うけどオタクの端くれとして実に腑に落ちる。

特典映像でブライアン・ポーリー監督が
映画制作中に未確認飛行物体を目撃し撮影してる。
きっと監督の中では
コレは偶然などではなく「全てが霊的な次元で繋がってる」のであろうが,
これ以上監督に共感すると,僕の自我境界線まで溶け始め,
監督と一体化する「人類補完計画」が始まってしまうので
アスカから教わった魔除けの呪文を唱えて撤退する事にしよう。

「気持ち悪い」

いやね。僕の母親はカルト宗教にハマり,
幼い頃の僕を総本山に強制連行して監禁し,
信者との共同生活を強要させたのだ。
母親の瞳は「子の為に良い事をした」と信じて疑わずキラキラ輝いていた。
ブライアン・ポーリー監督に「僕の母親」と同じヤバさを感じ,
キルアがネテロ会長に対してそうした様に,
飛び退いて距離を取った次第である。
このヤバさは「理屈じゃない」が故に僕の心胆を寒からしめるのだ。
このヤバさこそが僕が子供の頃体験した「地獄」なのだ。
僕にとっての「地獄」は空想上の観念的なインテリの言葉遊びなどではなく,
毎日毎日毎日毎日毎日母親に無理心中を懇願され続けた命乞いの日々であり,
日常の直ぐ隣に真っ黒な口を開けて僕を待ってる「具体的な光景」なのだ。

世界初のHDリマスター画質はとっても綺麗。
特典の丸ごと収録された「リマスター前の本編」映像を観れば,
画質の差は歴然である。

「通常版」のジャケットデザインからは
「魑魅魍魎の煮物」感が伝わって来る。
魔界の瘴気を思わせる複雑怪奇な湯気の中,肉がいい感じに蕩け
「人間だったもの」のガラからは,いいダシが取れてそうだ。
この煮物を一体「誰」が一体「何」が喰らうのか
想像の翼を広げて昏い愉しみに浸るひとときが堪らないのである。

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