見出し画像

映画「ナイトメア」4Kレストア全長版レビュー「キチガイの癲癇(てんかん)持ちの人殺しは死ぬまでキチガイの癲癇持ちの人殺しなのだ。」

ジョージ・テイタムは子供の頃,
両親が自宅でSMプレイに励んでいるのを目撃し性癖が歪み,
発作的に斧で母親の首を切断し,
母親に縛られていた父親の顔面を斧で両断して両者を惨殺し
現在でも血の海地獄の悪夢に苦しみ
精神病院で精神分裂症の癲癇持ちと診断され
新薬の実験台にされる日々を送っていた。

そんな彼が精神病院を脱走し,
女を惨殺して車を強奪し故郷へと向かう。
彼は自分が精神異常者である事を隠して
故郷で結婚して3人の子供を設けていたのだ。

だが…かつての妻は別の男と再婚して
新たな人生を歩もうとしている…。

彼は発作的にかつての妻の周囲の人間を片っ端から殺し始める…。

本作品はミステリでもジャッロでもなく
キチガイの癲癇持ちの人殺しは
例え精神病院で如何なる治療を受けようとも
キチガイの癲癇持ちの人殺しの本性が変わる事は断じてないのだと
描いて行くキチガイの凶行を追って行くスラッシャーなのだ。

ミステリでもジャッロでもないのだから
「犯人は一体誰なのか」
などといった謎解き要素は無く,対抗馬も無く,
終盤覆面を装着して登場して最後に覆面を剥いでも「驚き」は無い。
ある訳がない。

ジョージの「やり口」をひとつ紹介しよう。
風呂上がりの女の背後から鋭利な刃物で喉笛を掻っ切り
ペニスの代わりに鋭利な刃物を腹部に何度も何度も挿入し
女が絶命するとウッカリ膣出し(なかだし)しちゃったのを
謝罪する男の様に
「ゴメンね」
と囁くと言うね…。
「殺し」と「性交渉」が完全に一体化してるのですよ…。

終盤は元妻の子のCJ少年(つまりキチガイの息子)と
キチガイの父親との「地獄のホームアローン」が展開され
キューブリックの「シャイニング」の影響を感じさせる。
「シャイニング」も恐怖の根源が
「父親(=ジャック・ニコルソン)」なのであるから
本作に於いても
幾ら父親が「誤解しないで」と息子に語りかけても
誤解もヘッタクレもないのである。
「オマエは依然としてキチガイの癲癇持ちの人殺しである」
ソレが唯一の真実であり「誤解」の入り込む余地などないッ!

ただ…キチガイの癲癇持ちの人殺しの息子もまた
キチガイの人殺しとなって行く…。
…という展開にはゾッとしたし納得もした。
息子の…キチガイの人殺しの才能が…「ああいう形」で開花するところに
「因果」を感じずにはいられない。
「親の因果が子に報う」んだよ…。

本作の特殊効果監督のクレジットにトム・サヴィーニの名前があるが
サヴィーニ本人は
「オレは相談役として特殊効果担当のレスリー・ロレインに呼ばれて
現場に行き子供が母親の首を斧で切断する場面に立ち会っただけ。
それなのに映画では「特殊効果監督:トム・サヴィーニ」って
ワザワザ四角で囲ってテロップされている。
オレはその時「クリープショー」の準備作業をしてたんだ。
オレは自分の名前を外してくれって言ったら
ポスターのオレの名前にガムテでマスキングしただけ。
その直後にロレインが自殺。
ホントにね…本作の特殊効果を担当したのはロレインなんだ。
今からでもオレの名前を外してロレインの名前をテロップして欲しい」
…と特典映像
「ナイトメアの悪夢(The NIGHTMARE of NIGIHTMARE)」
の中で語っている。

「ナイトメア」が語られるとき必ず語られるのが
この顛末であり
『「ゾンビ」「13日の金曜日」のトム・サヴィーニ』
のネームバリューは本円盤のジャケットでも
「トム・サヴィーニが特殊メイクに協力」としっかり明記されている。

ブックレットによると
「スクワーム」で特殊効果を手掛けた製作者のビル・ミリングが
SFXスーパバイザを務めたが実力不足と判断され
スタテン島での追加撮影はトム・サヴィーニに依頼。
サヴィーニ本人は「クリープショー」の準備に忙しく
生首の効果に助言した程度と証言しているが
監督は
「撮影後の打ち上げパーティーにも(サヴィーニが)来た」
と証言しているという。

音声解説では
司会「特殊効果はトム・サヴィーニが…」
監督「(特殊メイクアップ効果は)エド・フレンチが担当したと聞いてるよ」
「トムがダメならエドだ」
「彼(トム)がエドを推したんだ」
と発言している。

完成した映画は「13日の金曜日」を配給したワーナー等,
大手各社が配給に名乗りを上げたが
配給の条件としての「残酷シーンのカット」を監督が拒絶。
結局インデペンデント(独立系)の21世紀フィルム社が配給した。

本作は英国では上映審査通過版とは異なるプリントで上映し
逮捕者を出す騒ぎとなり,
日本版ビデオは見るも無残なカット版となった。

数々の伝説を残す傷だらけの名作。
「傷だらけ」となるのは
本作の「キチガイ」と「癲癇持ち」と「精神病患者」に対する
偏見に満ち満ちた姿勢と
そのキチガイの癲癇持ちが繰り返す
猟奇殺人の「猟奇度」を考えれば当然であり
あっくっまっでっもっ
キチガイの癲癇持ちによる猟奇殺人を貫いた「名誉の負傷」と言えるのだ。

こんな映画はなあ!
この世から抹殺されて人々の記憶から削除され!
地球の中心まで穴を掘り土葬されて埋められて舎利になって
消え去って当然なんだッ!

…こんな反社会的で不道徳でコンプライアンスのかっけっらっもっない
映画の円盤なぞ…このオレが保護して守護(まも)ってやらねばならぬ…。

本ブルーレイでは現存するソースを組み合わせ
最良のバージョンに修復されているという。
「最良のバージョン」とは即ち「最長のバージョン」であり
本円盤の肩書が「4Kレストア最長版」となっている次第である。

「オリジナル版」と堂々と書けなかった
ニューライン社の無念が滲んでいるのである。
ニューライン君は「オリジナル」大好きっ子だからなあ…。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?