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黒澤明監督の映画「隠し砦の三悪人」レビュー「何も知らずに100まで生きるより何かを知って16で死にたい」。

山名との戦(いくさ)に敗れ討ち死にした秋月の殿には世継ぎの
雪姫(上原美佐)がいて山名は懸賞金をかけて雪姫の行方を追う。
雪姫を生かしておいては秋月を再興される恐れがあるのだ。
その雪姫は山中の隠し砦に身を隠し
侍大将の真壁六郎太(三船敏郎)以下数少ない郎党の保護下にあったが
遂に敵方に隠し砦の存在が捕捉され
雪姫と六郎太はみすぼらしい樵(きこり)の姿に身をやつし
軍用金を薪の中に隠し馬に載せ敵のど真ん中を突破し国境を越え,
かねてより秋月のお家に大事あらば秋月家中の者を保護するとの盟約を
結んである早川の領内に到達すれば雪姫の勝ち。

なれど秋月は嫡男に恵まれず雪姫を男勝りの猛々しい気性に育て
言葉遣いひとつで奇異に思われ
何より樵の姿に身をやつそうと人品は争えない。
そこで六郎太は一計を案じ雪姫に啞(おし)を演じさせることにする。
斯くしてミッション(作戦)の全貌が明らかになる。

1.山名領の真っ只中を通過して国境を越え早川領に到達すれば勝ち。
2.その間雪姫が一言でも発すれば負け。
3.薪に偽装した軍用金が見破られても負け。

加えて雪姫は憐憫の情が極めて篤く,戦に敗けた秋月の女が
人買いに牛馬の如く扱われるのを決して見過ごせぬ性分。
その都度六郎太に命じて女の買い戻しを命ずるのだ。

4.その雪姫の隠し様のない将器を隠しながら作戦を実行する。

と言う無理ゲーが今始まったのだ。

初見。
僕は雪姫が義経,六郎太が弁慶で
山名領全体を安宅の関と見立ててると受け取ったよ。

雪姫の男勝りで自分の身代わりになって死んだ六郎太の妹を
六郎太が「果報者」と表現したのに憤り

「ワシとそなたの妹,命に何の変わりがあろうぞ!」

と六郎太を厳しく責め,独り滂沱の涙を流す雪姫を慮り

「姫は某(それがし)の妹を「いけにえ」と称されるが…」
「姫こそが秋月家再興の礎とされる「いけにえ」です」

と雪姫の側女に語る場面が本当に素晴らしいのだ。

姫の言う通り「命には変わりはない」けれど
本作に於ける主役…六郎太と雪姫と
下郎(端役)の扱いの差で
雪姫が世間知らずの甘々な姫である事を表現する監督の手腕に唸る。

この危険極まる旅を「楽しかった」と表現する姫は
命はギリギリまで追い詰められて燃え上がってこそ
光り輝くことを学び取って行く。

人の命は火と燃やせ
虫の命は火に捨てよ
思い思えば闇の世や
浮世は夢よただ狂え

何も知らずに100まで生きるより
何かを知って16で死にたい

雪姫が到達した結論が
雪姫が経験した生の実感が
軍用金より遥かに価値のある財産だと
描いて映画は閉じる。

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