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映画「恐怖のいけにえ(THE UNSEEN)レビュー「本作は誰も観ない(UNSEEN)映画じゃない。」

TVレポーターのジェニファー(バーバラ・バック)は
LAから地方の祭りを取材する為に,
2人の女性スタッフを連れて地方都市を訪れるものの
TV局の不手際で現地の宿を予約しておらず,
何件か宿屋を当たってみるも当然満室。
3人が途方に暮れていると閑古鳥の鳴いている博物館の館長を務める
陽気な男アーネスト(シドニー・ラシック)が,
自分の家には自分と妹バージニア(レリヤ・ゴルドーニ)しか住んでおらず
空き部屋に泊まると良いと申し出た。
3人は,その申し出を受け,彼の家を宿屋代わりに使う事に決める。
彼の妹の妙にオドオドした態度と床に設置された通気口から
金網ごしに物音が聞こえるのが気になるものの,洒落た内装に文句は無い。
だが通気口は地下へと通じていてバージニアが鳥の生肉を運んでいる。
地下に「何か」居る。
その「何か」が3人に牙を剥こうとしているのだ…。

当初「悪魔のいけにえ」のキム・ヘンケルが脚本の原案を書くものの,
映画学校等で正式に学んだ事の無い彼の脚本は
箸にも棒にも掛からないもので,
監督のダニー・スタインマン(クレジットのピーター・フォレグは実質的に
彼だと音声解説でプロデューサーのアンソニー・B・アンガーは
明言している(後述)。)と
本職は特殊効果のスタン・ウィンストンとが加わり原案を再考。
その後,本職は特殊メイクのトム・バーマンの助言で
「地下に潜む何か(THE UNSEEN)」の素性を
近親婚の末,誕生した障害児と設定。
キム・ヘンケルは企画から降り,TV畑の脚本家マイケル・L・グレースが
脚本準備稿を執筆するも,
この時点で予算60万ドルを遥かに超え200万ドルに。
製作が危うくなりウィンストンもバーマンも降板。
代わりに監督の父親で実業家で本作のスポンサーでもある
ハーバード・R・スタインマンの旧友で,
「赤い影」「ナバロンの嵐」を手掛けた名プロデューサー,
アンソニー・B・アンガーが舵取りに参加。
「ハロウィン」「ザ・フォッグ」でプロダクションマネージャーを務めた
ドン・バーンズを共同プロデューサーに据え,
製作総指揮には「必殺コマンド」の
ハワード・G・ゴールドファーが名乗りを上げた。
実際アンガーの舵取りが無ければ映画は完成しなかっただろう。

こうして苦心惨憺の末,完成した映画を観ると,
スプラッター映画を見慣れた身の上にはビックリする程出血が少なく,
「血飛沫で驚かせたい」より
「話で震え上がらせたい」
本格志向なのだと分かる。
「地下に潜む何か」が正体を現す
スローモーションを利用した演出にも思わず手に汗を握ったと告白する。

画質は非常に良好で発色も良い。
DVD版の尺は91分だったが幾つかのカットが存在し,
その多くが今回のブルーレイ版では復活し尺の長さが94分となっている。
「DVD版を持ってるからブルーレイ版は敬遠する」
と思われてる方にも再考をお勧めする次第。

本商品には1982年4月22日にテレビ東京の「木曜洋画劇場」で
TV放映された本作の吹替が搭載されている。
平井道子,小松方正,山田栄子らの声の名演は
映画の格を1ランク上に上げている。

特典映像はインタビュー主体で,
そこにフォトギャラリーと予告編が加わっている。
特典のインタビューや音声解説を聴くと,
プロデューサーのアンガーは皆口を揃えて「ナイスガイ」と誉めそやすが,
監督のダニー・スタインマンに関しては,
「彼とはソリが合わない」「アイツは信用出来ない」
「監督の器じゃない」「強情と言うより頑固」
等々スタッフからも俳優からも散々である。
相当人格に問題があった様だ。
その他スタッフインタビューでは知的障がいで明言こそされないが,
挙動が明らかにダウン症の人間を
ネガティブに描く事に相当抵抗があった様だ。
「レインマン」だってダスティン・ホフマンに
神から授かった能力(ギフト)があったから救いがあったが,
本作では「母親への一途な愛」のみが武器なのだ。
本作の原題はTHE UNSEEN(=見えざる者)で「地下に潜む何か」を指すが,
口の悪いスタッフは,
本作こそ「誰も観ない(UNSEEN)映画」と手厳しい。
だが「地下に潜む何か」に母親を大切に思う心があり,
彼女に暴力を振るった父親に向かって行く姿は感動的で,
映画自体は決して「誰も観ない映画」ではないと僕は思う。

音声解説はプロデューサーのアンソニー・B・アンガーと
俳優のスティーヴン・ファースト,司会進行の3名によるもの。
特典にも音声解説にも監督が参加せず,
さながら欠席裁判の様相を呈するのが残念。

若い司会の昔の映画や俳優に関する無知が著しく,
年輩のアンガーに「それは違う」と何度も訂正されて,
その度に司会が「ソーリー(済みません)」と謝罪する場面が繰り返され,
最後にはアンガーが呆れて司会の質問に
「何分昔の事なので忘れた」
を繰り返す様になる最低最悪の音声解説だ。
音声解説の命は博覧強記な司会進行の存在なのだ。
スティーヴン・ファーストの底抜けの明るさがかえって虚しい。
それでも辛抱して聴くと,
ポストプロダクションの段階で編集の方向性の相違から
ダニー・スタインマンが降り,クレジット上から彼の名が削除され,
監督欄が空欄となった。
そこで「ピーター・フォレグ」なる名義上の監督が誕生したが,
実際の監督はダニー・スタインマンのままだったと言う。
またダニー・スタインマンは編集作業の速度が遅く,
納期に間に合わず更迭されたと言う。
プロデューサーのアンガーとしては
スポンサーと契約した納期を守れなかった監督が許せなかったのだ。
アンガーに監督に引導を渡す様,促したのは
彼の友人でスポンサーの監督の父親だった。

ジャケットデザインは
1遍でも本作を最後迄御覧になられた方なら問題は無いが,
初見の方にはバーバラ・バックの背後の「怪人」は誰?
と疑問が湧くだろう。
実際ジャケットデザインも裏面の写真選択も
大変なネタバレを含んでいるので解説は一切出来ないのだ。

本商品の評価だが画質が飛躍的に向上し,DVD版より尺が伸び,
素晴らしい吹替が搭載された事は評価するが,
如何せん音声解説の司会の質の低さには
耳を塞ぎたくなったので星ひとつ減点する。

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